バッハ,J.S. Bach,J.S.
■ カンタータ第51番「すべての地にて歓呼して神を迎えよ」BWV51
バッハの曲には協奏曲の形式をカンタータに応用した曲がありますが,その代表がこの曲です。この曲の第1楽章などは,ソプラノ,トランペットとヴァイオリンのための三重協奏曲のような趣きがあります。そのような華やかさと中間楽章の叙情性とが見事な陰影を作るこの曲はバッハのカンタータの中でも,特に個性的なものです。
この曲は何といってもソプラノの歌唱が聞き所です。高い音域と高い技術が要求され,しかも約20分歌いどおり,ということでソプラノにとっては大変な大曲です。当時,教会では女性歌手はまだ禁じられていたので,男性ソプラノ(ソプラニスタと呼ばれます)のために書かれた曲といわれています。(ボーイ・ソプラノには難しいより名人芸的な高度な技巧とひろい音域が要求されているのです)。ソプラノ独唱用カンタータとしては,「わが心は血の海に漂う」BWV199と並んで人気の高い作品となっています。
ソプラノと同様に独奏トランペットも派手に活躍しますが,こちらの方は,当時ライプツィヒで有名だったゴットフリート・ライヒェのために書かれたと言われています。
●作曲年:1730年(「三位一体節後第15日曜,ならびにあらゆる機会に」と楽譜記されているように特定の日曜日だけでなく,さまざまな目的で演奏されたようです。)
●テキスト:テキストは,神への感謝と賛美を歌ったものですが,作詞者は不明です。第4曲に登場するコラールは,ヨハン・グラマン作詞の「今こそ主を讃えん,わが魂よ」の中の一節です。
●編成:ソプラノ独唱,高音域トランペット,ヴァイオリン2部,ヴィオラ,通奏低音
曲番号 |
曲の種類 |
調・拍子 |
内容 |
第1番 |
アリア |
ハ長調 4/4 |
いきなり華やかにトランペットがソリスティックに登場します。ハ長調という調性ということもあり,祝祭的な雰囲気があります。続いて「歓呼せよ」とソプラノがメリスマを交えて歌いはじめます。A-B-Aのダ・カーポ形式で,中間部はイ短調で書かれています。途中,ヴァイオリンの独奏も入ります。 |
第2番 |
レチタティーヴォ |
イ短調 4/4 |
弦楽伴奏のレチタティーヴォ・アッコンパニャートは「神のいまし給う神殿に祈らん」とゆっくりと敬虔に語りはじめ,そのままアンダンテのアリオーソ「かよわき口が神の一奇跡を語れば」に入ります。この部分は通奏低音のみのシンプルな伴奏の上に歌われます。 |
第3番 |
アリア |
イ短調 8/12 |
通奏低音のみのオスティナート風の伴奏の繰り返しの上に歌われます。前の曲と似た雰囲気があります。「最高者よ,汝の善を朝ごとに新たにし給え」と宗教的な感動をこめて歌い上げられます。この曲もダ・カーポ形式で,「されば父のまことの前に」ではじまる中間部はハ長調になります。 |
第4番 |
コラール編曲 |
ハ長調 3/4 |
2つのヴァイオリンと通奏低音というトリオ・ソナタの編成の伴奏の上に,ソプラノがコラール声部を歌います。「父と子と聖霊をほめ讃えよ」という歌詞にふさわしい快活な主題ではじめられています。素朴なコラールがより動きのあるムードに変身しています。曲はそのまま第5曲につながります。 |
第5番 |
アリア |
ハ長調 2/4 |
テンポ・アップして「アレルヤ」の歌詞による,ソプラノ独唱とオーケストラによるフーガのようになります。主題はまずソプラノによって呈示され,ついでトランペット,第1ヴァイオリン,第2ヴァイオリンへと受け渡されて行きます。ソプラノは「アレルヤ」の歌詞を,長いメリスマをちりばめながら繰り返し,神への賛美のうちに全曲が閉じられます。 |
(2004/02/06)
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