OEKfan TOP > 曲目解説集  Program Notes
バッハ Bach,J.S.
ミサ曲ロ短調BWV.232  

宗教音楽のみならず,バッハの全作品の総決算として最晩年に作曲されたのが,ロ短調ミサです。バッハは,プロテスタントのルター派教会に属していましたので,ローマ・カトリック教会のミサ典礼用の通作ミサ曲(ラテン語の典礼文全体に作曲したもの)を作曲することは,常識的にはあり得ないのですが,演奏時間が2時間もかかる異例の規模を持つミサ曲は,最晩年に至ったバッハが,カトリック,プロテスタントの信条的な枠を超えた,全教会的な作品を作ろうという意図で作曲したと推測されています。西洋音楽史の中で,多くの作曲家によって作曲されてきたミサ曲ですが,ベートーヴェンの荘厳ミサと並ぶ,この分野の代表作と言えます。

この曲は,一般に「ロ短調ミサ」と調性を強調するような愛称で呼ばれています。短調の中でも特に暗く不吉な調(バッハ好みの調とも言われています)ということで,一見,とっつきにくい印象を与えるのですが,実は,  調のニ長調の部分も多く,神を讃える輝かしさに満ちた部分も沢山あります。多種多様の曲が集まっているのも特徴で,バッハの曲の中でも,むしろ変化に富んだ,親しみやすい曲とも言えます。

全曲は27曲から成っています。多くの曲は,フーガなどの対位法的な様式でかかれていますが,スタイルは古風なモテットからロココ風のアリアまで,ありとあらゆる音楽様式や作曲技法が集約されています。

先に「バッハ最晩年の作品」と書きましたが,これにも実は裏があります。「ミサ(キリエ,グローリア)」,「ニケア信条(クレド)」,「サンクトクス」,「ホザンナ,ベネディクトゥス,アニュス・デイ」と4部から成る作品ですが,それぞれに作曲された時期が違うのです。正確には,過去に作曲された曲を最晩年に再編集した曲ということになります。その作曲事情を時系列でまとめると次のようになります。
  • 1724年 サンクトゥスを作曲
  • 1733年 第1部のミサ(キリエとグローリア)を,ザクセンの新選帝候に献呈し,宮廷作曲家の称号を授かるたために作曲
  • 1748年 続きを書き始める。作業は新旧のカンタータ楽章の改作と書き下ろしの両面で進められ,ほぼ,完全に視力を失った1749年まで行われた。

しかし,バッハの生前には演奏されておらず,その作曲の目的が何であったのかは,やはりよく分かりません。ロ短調ミサの創作及びバッハが望んでいた上演の目的は,新しい資料が発見されない限り,結論づけられないようです。

当初から4部構成にする意図があったかどうかについても,はっきりしませんが,最終的に,最晩年に4つの部をまとめた大きな作品にしたということは確かです。そう考えると約四半世紀にも渡って作られた作品にも関わらず,非常によくまとまっていることに驚かされます。バッハが若い時期から完成された作曲家だったことを示す証拠とも言えます。

曲の楽器編成は次のとおりです。
  • 独唱: ソプラノ2,アルト,テノール,バス
  • 合唱: 5〜8声部合唱
  • オーケストラ: フルート2,オーボエ3,オーボエ・ダモーレ2,ファゴット2,コルノ・ダ・カッチャ,トランペット3,ティンパニ,ヴァイオリン2部,ヴィオラ,通奏低音

声楽曲としてだけではなく,オーケストラのソロ楽器の活躍も目立ちますので,ブランデンブルク協奏曲などに通じるような器楽作品としての魅力も持っています。その意味でも,やはり「バッハの総決算」というしかない作品です。

ちなみにロ短調ミサは,19世紀のバッハ復活運動でも大きな役割を果たしています。バッハは,1829年のメンデルスゾーンによる,マタイ受難曲の蘇演から再評価が始まったといわれていますが,ロ短調ミサについては,1816年にロンドンで出版が計画され,1818年には,チューリッヒの出版社が熱のこもった広告を出しています。バッハの再評価は,マタイではなく,ロ短調ミサから始まったと言えそうです。

第1部 ミサ
第1曲 合唱「キリエ・エレイソン(Kyrie eleison)(1)」
ロ短調,アダージョ,ラルゴ,4/4 五部合唱(ソプラノ1,2,アルト,テノール,バス)
大曲の冒頭に相応しい凛とした響きを持った導入部の後,器楽の間奏を経て,表出力に溢れた主題による精緻な対位法の綾を成すフーガになります。テノール,アルト,ソプラノ1,ソプラノ2,バスの順に模倣されます。その後,再度器楽の間奏の後,今度は,バス,テノール,アルト,ソプラノ1,ソプラノ2の順に登場します。

原曲:フィルデラーのミサ曲ト短調を参考にしたもの

第2曲 二重唱「クリステ・エレイソン(Christe eleison)」
ニ長調,アンダンテ,4/4 二重唱(ソプラノ1,2),バイオリンオブリガート
当時の新しい趣味を反映した優雅なギャラント様式による二重唱です。ヴァイオリン斉奏と通奏低音のみの伴奏の上で2人のソプラノが「キリストよ憐れみたまえ」と歌います。

原曲:祝賀カンタータの改作という説があります。

第3曲 合唱「キリエ・エレイソン(Kyrie eleison)(2)」
嬰ヘ短調,アレグロ・モデラート,2/2拍子 四部合唱(ソプラノ,アルト,テノール,バス)
通奏低音を伴いながらも,パレストリーナの時代にミサ曲に通じる古様式(スティレ・アンティコ)の対位法で書かれた合唱曲です。4声による合唱は,バス,テノール,アルト,ソプラノの順に登場し,「主よ憐れみたまえ」と神秘的な主題を投げかけていきます。器楽は声楽パートをそのまま補助する「コラ・パルテ」の手法を取っています。

第1〜3曲のキリエは,このようにロ短調−ニ長調−嬰ヘ短調という3つの調性を取っています。そのことによって,ミサ全曲についても幅広い和声を取ることを予言しているようです。

原曲:失われた作品の改作という説もある。

第4曲 合唱「グロリア(Gloria in excelsis)」
ニ長調,ヴィヴァーチェ,3/8拍子 五部合唱(ソプラノ1,2,アルト,テノール,バス)

ミサ通常文の第2部グロリアをいくつかの曲に分けて作曲する方法は,18世紀のミサ曲の典型である「ミサ・コンチェルタータ(協奏様式ミサ曲)」でよく見られます。この曲についても,第4〜12曲の「グロリア」は,三位一体に基づいて,緩やかに左右対照的な構造をとる9曲から構成され,中心には「ドミネ・デウス」(主なる神)が来ます。このキリエとグロリアからなる,第1部「ミサ」だけで,音楽的にも完全なもので,各楽器,ソロ歌手に見せ場があります。

第4曲は,3本のトランペットとティンパニを伴ったオーケストラで華やかに飾られながら,合唱が「グロリア」と神の栄光を讃えます。

原曲:失われた協奏曲またはカンタータの改作という説もある。

第5曲 合唱「エト・イン・テラ・パクス(Et in terra pax)」
ニ長調,アンダンテ,4/4拍子 五部合唱(ソプラノ1,2,アルト,テノール,バス)
地上の平和を願う安らかな楽想を持った曲です。合唱に弦,木管,そして,最後に金管も加わって,喜びのうちに曲は終わります。

転用:カンタータBWV 191の冒頭に再利用

第6曲 アリア「ラウダムス・テ(Laudamus te)」
イ長調,アンダンテ,4/4拍子 アリア(ソプラノ2),ヴァイオリンオブリガート
弦楽合奏と通奏低音に支えられた独奏ヴァイオリンが喜びに満ちた主題を演奏した後,ソプラノ2が「われら汝をほめ」と神の賛美を歌います。トリオを交えた長い装飾句が特徴的な曲です。

第7曲 合唱「グラツィアス・アジムス・ティビ(Gratias agimus tibi)」
ニ長調,アレグロ・モデラート,2/2拍子  四部合唱(ソプラノ,アルト,テノール,バス)
古様式による4声の声楽ポリフォニーを基調とした曲です。器楽は弦,木管で始まり,曲の高揚とともにトランペットとティンパニが加わり,壮麗な響きの中で締めくくられます。

原曲:カンタータBWV 29「感謝します,神よ,感謝します」 (Wir danken dir, Gott, wir danken dir) の2曲目

第8曲 二重唱「ドミネ・デウス(Domine Deus)」
ト長調,アンダンテ,4/4拍子  二重唱(ソプラノ1,テノール)
フルート,弦楽合奏,通奏低音による愛らしい前奏に続いて,ソプラノ1とテノールが「主なる神,天の王」と歌い合います。チェロのピツィカートの伴奏が印象的です。

原曲:祝賀カンタータ「汝ら天の家よ」BWV193aの第5曲「私は讃えよう」に基づく改作。カンタータBWV 191の二重唱にも転用されています。

第9曲 合唱「クイ・トリス(Qui tollis peccata mundi)」
ロ短調,レント,3/4拍子  四部合唱(ソプラノ,アルト,テノール,バス)

前曲から切れ目なしに演奏されます。一転して神秘的なロ短調になり,世の罪を除く主に対する願いを切々と語ります。フルート2本を含むオーケストラの響きにも,そういった心理描写にあった霊妙さがあります。

原曲:カンタータBWV 46の前半部分の転用

第10曲 アリア「クイ・セデス(Qui sedes ad dexteram Patris)」
ロ短調,アンダンテ・コモード,6/8拍子  アリア(アルト),オーボエダモーレ・オブリガート
オーボエ・ダモーレ独奏による前奏に続いて,アルト独唱が「父の右に座したもう主よ」と歌います。オーボエ・ダモーレは「愛のオーボエ」という意味を持ちますが,その名に相応しい表出力に富んだ演奏を聞かせてくれます。終わり付近で,「われらを憐れみたまえ」と歌いながら1小節ほどアダージョになります。その後,再度「クイ・セデス」の長いメリスマを印象的に歌って曲を終えます。

原曲:この曲も改作の可能性が高い

第11曲 アリア「クァニアム(Quoniam tu solus sanctus.)」
ニ長調,アンダンテ・レント,3/4拍子  アリア(バス),コルノ・ダ・カッチャオブリガート
コルノ・ダ・カッチャ(狩のホルン),ファゴット2本,通奏低音に支えられたバスが,「汝のみひとり聖」と神を賛美するおおらかなアリアです。救世主を賛美する内容に相応しく,オクターブの上昇で始まるホルンのメロディは憧れに満ち,曲に広がりを与えています。

第12曲 合唱「クム・サンクト・スピリトゥ(Cum Sancto Spiritu)」
ニ長調,ヴィヴァーチェ,3/4拍子  五部合唱(ソプラノ1,2,アルト,テノール,バス)
前曲から切れ目無く演奏されます。合唱が「聖霊とともに」と喜ばしく歌い始め,キリエとグロリアからなる第1部「ミサ」の終曲に相応しい,全オーケストラが加わる,華やかな曲です。

ホモフォニックな導入部に続く合唱フーガでは,テノール,アルト,ソプラノ1,ソプラノ2,バスの順に模倣されていきます。器楽の間奏,ホモフォニックな合唱の後,終結部では,ソプラノ1から始まる壮大な声楽によりポリフォニーとなります。オーケストラも次第に楽器の数を増やし,最後はトランペットが高音で活躍しながら,華々しく第1部を締めくくります。

転用:カンタータBWV 191の終曲

第2部 ニケア信経(Symbolum Nicenum)
カトリックのミサ曲では,「クレド」にあたる部分ですが,バッハの書いた譜面の表紙には,「ニケア信経」と書かれています。左右対照的な構造をとる建築的な均整を持っています。9曲の中心には「クルシフィクス」(十字架につけられ)が来ます。

13曲 14曲 15曲 16曲 17曲 18曲 19曲 20曲 21曲
合唱 合唱 二重唱 合唱 合唱 合唱 アリア 合唱 合唱
古+モダン
のセット
S+A       B 古+モダン
セット

第13曲 合唱「クレド(Credo in unum Deum)」
ニ長調(ミクソリディア調),モデラート,2/2拍子  五部合唱(ソプラノ1,2,アルト,テノール,バス)
「われは信ず,唯一なる神」という歌詞を擬古的な声楽ポリフォニーで歌います。この曲には,序奏はなく,ミクソリディア調の伝統的なクレドの聖歌メロディが,テノール,バス,アルト,ソプラノ1,ソプラノ2,ヴァイオリン1,ヴァイオリン2の順に模倣されていきます。合計7声で,ポリフォニーの綾を降ります。通奏低音は,この間,ずっと4部音符による上下音階を刻み続けます。

第14曲 合唱「パトレム・オムニポテントゥム(Patrem omnipotentem)
ニ長調,アレグロ,2/2拍子   四部合唱(ソプラノ,アルト,テノール,バス)
前曲から引き続いて,上3声部が「クレド」と歌う一方,バスによって「パトレム・オムニポテントゥム(全能の父)」と歌われてます。こちらの方は次第に上声部に模倣されていき,高らかなトランペットやクライマックスで出て来るティンパニの音とともに創造主を賛美します。

原曲:カンタータBWV 171の冒頭曲

第15曲  二重唱「エト・イン・ウヌム・ドミヌム(Et in unum Dominum)
ト長調,アンダンテ,4/4拍子  二重唱(ソプラノ1,アルト)
オーボエ・ダモーレの訴えかけるような前奏に続いて,ソプラノとアルトの二重唱が,神のひとり子イエスへの信仰を告白します。

第16曲 合唱「エト・インカルナトゥス・エスト(Et incarnatus est)」
ロ短調,アンダンテ・マエストーソ,3/4拍子  五部合唱(ソプラノ1,2,アルト,テノール,バス)
音楽は,ロ短調の霊妙な響きに戻り,処女懐胎によって人の子となったイエスの神秘について語ります。主題も,人への降下を象徴するような下行3和音の主題です。ヴァイオリンが延々と演奏する伴奏音型は,キリストを象徴する「十字架音型」となっています。

このように,神学と音楽が神秘的な合一を成し遂げた曲となっています。バッハは,第2部の作曲に際して,この曲を後から追加したと言われています。そのことによって,次のクルチフィクススがクレド全9曲の中心に位置することになり,イエスの受難が音楽的に強調されることになりました。

第17曲 合唱「クルチフィクスス(Crucifixus)
ホ短調,グラーヴェ,3/2拍子  四部合唱(ソプラノ,アルト,テノール,バス)
イエスの受難という悲しみに満ちた内容の歌詞を,ワイマール時代に作曲したカンタータ第12番の中の合唱曲に当てはめたものです。半音階的に下行する4度音程(ラメント・バスと呼ばれます)という伝統的な手法が通奏低音に使われており,簡潔に深い悲しみを表現しています。

原曲:カンタータBWV 12「泣き,嘆き,憂い,怯え」 (Weinen, Klagen, Sorgen, Zagen) 第2曲冒頭のシャコンヌのパートの転用。ただし,最後の部分はBWV 12にはなく,新たに作曲されています。

第18曲 合唱「エト・レスレクィスト(Et resurrexit)
ニ長調,アレグロ,3/4拍子  五部合唱(ソプラノ1,2,アルト,テノール,バス)
受難の悲しみから一転して,「3日後によみがえり」と復活の喜びが五部合唱で高らかにうたわれます。3本のトランペットを含むオーケストラが伴奏し,管弦楽組曲のような晴れやかな雰囲気で締められます。

原曲:セレナード「遠ざかれ,明るい星よ」BWV Anh9の冒頭部の改作

第19曲 アリア「エト・イン・スピリトゥム・サンクトゥム(Et in Spiritum Sanctum)
イ長調,アンダンティーノ,6/8拍子  アリア(バス),オーボエダモーレオブリガート
優しく包み込むような2本のオーボエ・ダモーレと通奏低音に続いて,バスが「生命を与えたもう主なる聖霊を信ず」と安らぎに満ちた歌を歌います。

原曲:ダ・カーポ形式が残っていることから,改作の可能性が高い。

第20曲 合唱「コンフィテオル(Confiteor)」
嬰ヘ長調,モデラート,アダージョ,2/2拍子  五部合唱(ソプラノ1,2,アルト,テノール,バス)
通奏低音の伴奏の上に,5声の声楽ポリフォニーで歌われる合唱曲です。罪の赦しのための洗礼について歌った後,死者のよみがえりを期待するところでは,アダージョにテンポを落としながら神秘的に祈念し,そのまま次の曲に入ります。途中にも,バス→2倍に引き伸ばされたテノールの順番に,聖歌「コンフィテオル」のメロディが定旋律として登場する部分が出てくる箇所があります。

ロ短調ミサは,大半の曲が改作ですが,この曲だけがバッハの新作であるという学説もあります。

第21曲 合唱「エト・エクスペクト(Et expecto)」
ニ長調,ヴィヴァーチェ・エド・アレグロ,2/2拍子  五部合唱(ソプラノ1,2,アルト,テノール,バス)
前曲の最後の行「われは待ち望む」の歌詞が繰り返され,死者のよみがえりと来世の生命への期待が全オーケストラを伴った合唱で華々しく歌われます。この曲も以前のカンタータの一部の転用ですが,主としてオーケストラの喜ばしい音楽を利用し,合唱部分については,かなり自由に扱っています。

原曲:カンタータBWV 120の第2曲

第3部 サンクトゥス
第22曲 合唱「サンクトゥス(Sanctus)」
ニ長調,ラルゴ,4/4拍子・ヴィヴァーチェ,3/8拍子  六部合唱(ソプラノ1,2,アルト1,2,テノール,バス)
「聖なるかな」の合唱は,3本のトランペット,3本のオーボエ,弦楽3部,3連音符の連続,後半の3/8拍子と色々な部分で「3」という数字と関連付けて作られています。このことは,イザヤ書第6章にある「聖なるかな」と3たび呼び交わしたというセラピムの声を象徴しています。「天と地は主の栄光に満つ」という最後の行は,3/8の壮大な合唱フーガとなっています。

原曲:現在では失われた1724年作曲のソプラノ3声,アルト1声の作品。これ以降の作品は,すべてバッハの初期の作品に遡るものであう。

第4部 ホザンナ,ベネディクトゥス,アニュス・デイとドナ・ノビス・パーチェム
第23曲 合唱「オサンナ・イン・エクチェルシス(Hosanna)」
ニ長調,アレグロ,3/8拍子  八部合唱(複合唱)(ソプラノ1,2,アルト1,2,テノール1,2,バス1,2)
2つの合唱群が呼びかけあうような二重合唱の賛歌です。片方がポリフォニックに,もう片方がホモフォニックに「オザンナ」「オザンナ」と呼び交わしあいます。

原曲:現在,歌詞しか残っていない祝賀カンタータ「国父なる王よ万歳」BWV Anh.11)の冒頭合唱の改作。この曲は,BWV 215の冒頭曲にも転用されています

第24曲 アリア「ベネディクトゥス(Benedictus)」
ロ短調,アンダンテ,3/4拍子  アリア(テノール),フルートオブリガート
「祝福あれ」と歌いはじめるテノールのアリアです。フルートと通奏低音によって曲を通じて出て来る,しみじみとしたリトルネッロも大変魅力的です。なお,この曲の通奏低音にはファゴットは含まれていません。

ただし,この曲については,歌詞と曲想が食い違っているという指摘もされています。

第25曲  合唱「オサンナ・イン・エクチェルシス(Hosanna(ダカーポ))
第23曲の繰り返しです

第26曲 アリア「アニュス・デイ(Agnus Dei)」
ト短調,アダージョ,4/4拍子  アリア(アルト),ヴァイオリンオブリガート
ヴァイオリンの斉奏によるリトルネッロに続いて,アルトが「神の子羊」と心に迫るアリアをしみじみと歌います。この歌に,5度下でヴァイオリンがそっと答えます。

原曲:歌詞のみが残っている1725年作曲の結婚式用セレナード。昇天祭オラトリオ(BWV 11)とも関連があると指摘されています。

第27曲 合唱「ドナ・ノビス・パーチェム(Dona nobis pacem)」
ニ長調,モデラート,2/2拍子  四部合唱(ソプラノ,アルト,テノール,バス)
平和への願いを歌う最終曲は,第1部ミサの「グロリア」の中の「グラツィアス」をほとんどそのまま使ったものです(最晩年のバッハが,ロ短調ミサを1個の完結した作品として構想していたことの証拠となります)。合唱とオーケストラは次第に盛り上がり,トランペットの輝かしい響きとともに,全ミサ曲を締めくくります。

(参考文献)
(2010/01/24)