バッハ,J.S. Bach,J.S.

■管弦楽組曲第3番ニ長調,BWV.1068

バッハが作った管弦楽組曲の中では第2番の次に有名な曲です。ただし,この曲の2曲目の「エール("アリア"のフランス語読みです)」は通称「G線上のアリア」として大変良く知られていますので,その意味ではバッハの作品中もっとも有名な作品と言うこともできます。

この曲は弦楽合奏にトランペット3本,オーボエ2本,ティンパニが加わりますので,組曲第2番よりは祝祭的な気分の漂う作品となっています。この曲も他の組曲同様,序曲の後に舞曲が続く構成となっています(「管弦楽組曲」というのは後世の呼び名で当時は全体の半分ほどの長さを占める「序曲」と呼ばれていました)。当時流行したいたフランス生まれの組曲の形式を取っています。この組曲は,通常,アルマンド,クーラント,サラバンド,ジーグという舞曲から成っているのですが,バッハの管弦楽組曲では必ずしも全部が使われているわけではなく,第3番では「 」が使われていません。


第1曲 「グラーヴェ」−「ヴィヴァーチェ」−「グラーヴェ」という三部形式で書かれています。第2番と同様,フランス風序曲の形式で書かれていますが,楽器編成にティンパニとトランペットが加わっていますので,とても華やかで祝祭的な気分が溢れています。中間部はきびきびとした速い動きを持つフーガになります。ここではヴァイオリンのソロが入るなど協奏曲風にトゥッティとソロが交替します。その後,再度,最初のグラーヴェが再現します。

第2曲 エール。この後,舞曲が 曲続きます。その最初に出てくるのが,上述のとおり「G線上のアリア」として大変良く知られている「エール」です(あまり舞曲風ではありませんが)。トランペット3本をはじめ,華やかな雰囲気のあるこの組曲の中で唯一管楽器が入らないのがこの曲です(その曲がいちばん有名というのも面白いのですが)。全曲中のオアシスのような感じの曲です。

いかにも胎教などに良さそうな「ポン,ポン,ポン,ポン」という落ち着いた通奏低音の動きの上にヴァイオリンが息の長い美しいメロディを歌います。このメロディは聞く人すべての心を落ち着かせてくれるような名旋律です。時々,半音的な動きを交え,翳りを見せながら曲は最後まで平静さを保ったまま進んで行きます。ヴァイオリンの旋律だけでなく,それに絡み合うメロディも非常に魅力的です。

この曲は現代楽器による演奏では,情感たっぷりに演奏されることもありますが,近年の古楽器を意識した演奏だとさらりと演奏されることの方が多くなっています。

なお,この曲が「G線上のアリア」と呼ばれるのは,ウィルヘルミという人がヴァイオリン独奏版に編曲した際にヴァイオリンのG線(いちばん低い弦)だけを使ったためです。このヴァイオリン独奏版以外にもいろいろなアレンジで演奏されます。その他,鎮魂のための曲として演奏されたり,アンコール・ピースとしてもよく演奏されます。

第3曲 ガヴォット。バッハの作曲したガヴォットの中でも最も親しまれている曲の一つです。トランペットのきらびやかな音を中心として,宮廷の式典を彷彿とさせるような高貴な雰囲気を持つ曲です。

中間部のトリオは,少し落ち着いた第2ガヴォットとなりますが,ここでもトランペットが大活躍します。

第4曲 トリオのない短いブレーです。ここでもきびきびとした音の動きが特徴的です。シンコペーションも印象的に使われています。

第5曲 ジーグ。チェンバロ用の組曲の場合,ジーグは終曲としてよく使われますが,管弦楽組曲の終曲として使われているのはこの曲だけです。ここではフーガが使われないイタリア式ジーグとなっています。全曲に渡って「タタタ,タタタ」という6/8のリズムが流れるように続く曲です。最後はトランペットの華やかな音を交えて明るく結ばれます。(2005/03/01)