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バッハ Bach,J.S.
パルティータ Herz und Mund und Tat und Leben 
バッハは平均律クラヴィーア曲集第1巻をはじめとする鍵盤楽器のための作品を,いわゆるケーテン時代(1717〜1723年)に書いていますが,生涯の最後を過ごしたライプツィヒ時代(1723〜1750年)にも総決算のようにゴルトベルク変奏曲などの名作を書いています。

このライプツィヒ時代の1726〜1730年に書けて自費出版され,1731年に1冊にまとめられたのが6曲から成るパルティータです。このセットは,出版当時,音楽界に大きなセンセーションを巻き起こし,専門家からも大絶賛を浴びました。その特徴は,イギリス組曲,フランス組曲と同様に4つの基本舞曲(アルマンド,クーラント,サラバンド,ジーグ)を中心に構成されていながら,さまざまな点でより自由に作られている点です。バッハ自身,このことを意識して,これらの曲集を「パルティータ」と呼んだようです。

例えば,6曲それぞれが別々の構成を持っています。特に各曲の最初に序曲のように置かれている曲は,プレルーディウム,シンフォニア,ファンタジア,序曲,プレアンブルム,トッカータと別々の名前で呼ばれています。イタリアとフランス起源の種々の様式と形式が盛り込まれているのが特徴と言えます。

その他,終曲のジーグも各曲とも拍子が違っています。各曲の調性も,変ロ長調,ハ短調,イ短調,ニ長調,ト長調,ホ短調とバラバラで,上がったり,下がったりのジグザグを描く調性プランとなっています。

このパルティータは,「クラヴィーア練習曲集」第1部として出版されましたが,その4年後,別の出版社から「クラヴィーア練習曲集」第2部というものも出版されています。その中に含まれている,フランス風序曲ロ短調BWV831は,パルティータ第7番と呼ばれることもあります。

各曲の構成を表にすると次のとおりとなります。
1番
変ロ長調
BWV825
2番
ハ短調
BWV826
3番
イ短調
BWV827
4番
ニ長調
BWV828
5番
ト長調
BWV829
6番
ホ短調
BWV830
1曲 プレルーディウム
4/4
シンフォニア
4/4-3/4
ファンタジア
3/8
序曲
2/2 - 9/8
プレアンブルム
3/4
トッカータ
2/2 - 4/4
2曲 アルマンド
4/4
アルマンド
2/2
アルマンド
4/4
アルマンド
4/4
アルマンド
4/4
アルマンド
4/4
3曲 コレンテ
3/4
クーラント
3/2
クーラント
3/4
クーラント
3/2
クーラント
3/8
クーラント
3/8
4曲 サラバンド
3/4
サラバンド
3/4
サラバンド
3/4
アリア
2/4
サラバンド
3/4
エア
2/2
5曲 メヌエットI&II
3/4
ロンドー
3/8
ブルレスカ
3/4
サラバンド
3/4
テンポ・ディ・メヌエット
3/4
サラバンド
3/4
6曲 ジーグ
4/4
カプリッチョ
2/4
スケルツォ
2/4
メヌエット
3/4
パスピエ
3/8
テンポ・ディ・ガボット
2/2
7曲        ジーグ
8/12
ジーグ
9/16
ジーグ
6/8
ジーグ
2/4

個々の曲の特徴は以下のとおりです。

第2番ハ短調BWV826
バッハのパルティータは,2番以降,当時の組曲の定型からどんどん離れていきます。まず,プレリュードのスタイルではなく,シンフォニアで開始。サラバンドの後は,ロンド―とカプリッチョという「舞曲でない曲」が続き,終曲も定番の「ジーグ」ではありません。

  • 第1曲:シンフォニアというのは,もともとはオペラの序曲を指し,フランス風序曲(付点音符の付いた荘重な感じで始まる 緩−急−緩の形式。中間部はフーガになる)とイタリア風序曲(急−緩−急の形式)とが合わさったような感じになっています。この曲では,悲壮感のある感じで始まった後,通奏低音付きのヴァイオリン独奏の歌のようなアンダンテ4/4になります。その後,2声部アレグロのフーガ(3/4)になり,フランス風序曲の中間部に当たる部分になります。最後は急速なテンポで終了します。
  • 第2曲:2部形式。イタリア風のアルマンド。模倣風に始まりますが,ずっと対位法的に書かれているわけではありません。
  • 第3曲:2部形式。軽妙さのあるフランス風のクーラントです。
  • 第4曲:2部形式。サラバンドですが,付点リズムは使われておらず,重苦しい感じにはならず,淀みなく進んでいきます。冒頭の進行は,最初のシンフォニアの中間部のアンダンテと関連しています。
  • 第5曲:活気にあふれたロンド。A-B-A-C-A-D-Aの形式となっています。
  • 第6曲:対位法的に書かれたカプリッチョ。ジーグではありませんが,ジーグの場合同様,2部的になっており,第1部のフーガ風に始まる主題が第2部では転回して示されます。

第4番ニ長調BWV828
パルティータの中でも長大なものに属する,全体として喜ばしさに満ちた曲です。クーラントの後にアリアが,サラバンドの後にメヌエットが続くのが構成上の特徴です。

  • 第1曲:フランス式序曲ですが,元来のフランス式序曲の最後の緩徐な部分は省略されています。付点リズムをおいた祝祭的で堂々とした部分で始まった後,テンポの速い三声のフーガが続きます。
  • 第2曲:2部形式。ヴァイオリン・ソナタの緩徐楽章を思わせる優美さを持っています。全曲中最も長い楽章です。
  • 第3曲:2部形式。楽譜上とは違い,2/3的であったり4/6的であったりする,美感に富むフランス風のクーラントです。
  • 第4曲:2部形式。アリアに相応しいなだらかな歌が印象的な曲。第2部は第1部の倍以上の長さを持っています。
  • 第5曲:和声的で旋律的なゆったりとした楽章です。第2拍目が長くなるサラバンドの一般的特徴は表面に現れず,舞曲としてのサラバンドからはかけ離れています。
  • 第6曲:メヌエット楽章ですが,トリオにあたるメヌエットIIがありません。それでも第2部には新しい楽想が現れ,全体として優雅な気分を持っています。
  • 第7曲:分散和音的な動きを中心とした,急速で華麗な曲です。通常のジーグとは異なり,第2部では,第1部の転回形ではなく,変形したもので始まります。

(参考文献)作曲家別名曲解説ライブラリー;12.J.S.バッハ.音楽之友社,1993
(2007/06/30)