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バッハ Bach,J.S.
パッサカリアハ短調BWV582  

バッハのオルガン曲では,何と言ってもトッカータとフーガ,次いで小フーガト短調が有名ですが,それに次いで有名なのがこのパッサカリアハ短調です。パッサカリアという形式は,主に低音で反復される主題に基づく変奏曲の一種です。ただし,この曲の書かれた18世紀前半(1708〜1712年頃のワイマール時代,バッハのオルガンの傑作が次々生まれた時代です),既にこの形式は使い古された形式とされていたようです。そのこともあってか,バッハ自身この名前の作品は,この1曲しか残していませんが,聞けば分かるとおり,「これが決定版」という堂々たる作品となっています。

バッハの作品には,数学的な構成感が感じられる曲が多いのですが,この曲は特に綿密に設計されており,オルガンならではの立体的な音響構成によって,壮麗堅固な巨大建築を見るような迫力を持った作品となっています。

この曲は,パッサカリア主題による,20の変奏の後に21番目の変奏として,フーガが続く形になっていますが,このフーガの部分が長大なので(5分ほどあります),「パッサカリアとフーガ」と呼ばれることもあります(トッカータとフーガという名前に馴染んでいるので,こちらのタイトルの方が収まりが良いかもしれませんね)。

この作品の持つ壮麗さは,後世の作曲家も注目しており,レスピーギ,ストコフスキー,オーマンディなどがオーケストラ用に編曲をしています。その他,ケラーという人による2台のピアノ用の版もあるとのことです。

曲は,ペダルで演奏される徐々に下降していく威厳のある主題で始まります。この8小節からなる主題をしっかり頭に入れ,その後,繰り返しに身を任せれば,”気分は大伽藍の中”という作品です。ちなみに,この主題はフランスのアンドレ・レゾン(1650〜1720)の「パッサカリアによるトリオ」から取られたものです。

構成は次のとおりです。

パッサカリア部
第1部:第1変奏〜第10変奏:低音部に主題。次第に修飾的な音が多くなり,高揚
第2部:第11変奏〜第15変奏:主題が高音部に移動。その後,主題の出てくる声部がアルト,テノール,バスへと下降し,全体の声部数も3→2→1と減少していきます。
第3部:第16変奏〜第20変奏:主題がペダルに出てきて,圧縮された形で第1部が再現されます。5声部で精緻に書かれた第20変奏で力強く終止します。

フーガ部
パッサカリア主題の前半部に基づく,4声部で書かれたフーガです。主題以外に2つの対位句が常に絡んでいるのが特徴です。フーガの頂点で,ハ短調の主和音から突然,「ナポリ6の和音」と呼ばれる印象的な響きが出てきて,その後,一気にハ長調の終結部になります。この鮮やかな転換も聞きどころの一つです。

(参考文献)作曲家別名曲解説ライブラリー;12.J.S.バッハ.音楽之友社,1993
(2009/09/29)