バルトーク Bartok

■コントラスツ
Kontraste
バルトークは第2次世界大戦を避けるために1940年にアメリカに移住しました。この曲は,その移住直前の1938年に書かれ,1939年にニューヨークでヴァイオリンのヨーゼフ・シゲティ,クラリネットのベニー・グッドマンそしてバルトーク自身のピアノによって初演されています。その後もこの3人でこの曲を持ってアメリカ各地を演奏旅行しています。

クラリネットのパートはベニー・グッドマンを想定しているだけあって,ジャズのイディオムが使われています。それにハンガリー舞曲を混ぜあわせた「架空の舞踏音楽」となっています。所々,バルトークならではの凝ったジョークも盛り込まれています。全体にピアノ・パートは控えめで,クラリネットとヴァイオリンが活躍するように書かれています。この2つのパートの対比(コントラスツ)を狙った作品と言えます。

第1楽章ヴェルブンコシュ(寡兵の踊り) Verbunkos
このヴェルブンコシュというのは,中世から18世紀末頃までのハンガリー特有の習慣です。軽騎兵連隊に志願した新兵は入隊前に盛り場でジプシー楽団の伴奏で賑やかに歌い踊ることになっています。その踊りを描写したものです。

ただし,それほど賑やかな感じの曲ではありません。曲はヴァイオリンのピツィカートで始まった後,ひっそりとしたメロディをクラリネットが演奏します。このメロディをヴァイオリンが受け継ぎます。その後,静かな雰囲気になりますが,甲高いクラリネットの音が出てきたりして,独特のムードを作っていきます。途中,ピアノがグリッサンドを繰り返した後,新兵の調子っぱずれの歌を聞いて,みんなが笑い出すという光景を描いている部分があります(音楽で描いたジョークと言われていますが,中々普通の人にはわからないと思います)。最初のひっそりとしたメロディが何回か再現した後,クラリネットのカデンツァが出てきて静かに終わります,

第2楽章ピヘネー(休息)Piheno
間奏曲風の楽章です。ピアノの静かな伴奏の上に,ヴァイオリン,クラリネットの両楽器がひそやかな音楽を展開していきます。中間部では激しい音の動きが出てきて,何回か盛り上がりますがすぐに静かな雰囲気に戻り,そのまま楽章を閉じます。

第3楽章シェベシュ(速い踊り) Sebes
冒頭,ヴァイオリンが調弦をするような部分が出てきます。これは,なかなか音程が合わない様子を描いています。ここでは,違う調弦のされたヴァイオリンを別に用意しておき故意に調子っ外れの音を出すことになっています。ちなみにこの楽章では,クラリネットもA管からBb管に持ち替えています。この音の動きが速くなっていった上にクラリネット,ピアノの順にエキゾチックな音の動きをもったメロディが絡みます。大変印象的な部分です(以前,この部分はNHKの芸術劇場のテーマ曲として使われていたことがあります)。その後も民族舞曲風の速い動きを持った音楽が続きます。

途中静かな部分になり,叙情的なメロディがヴァイオリンに出てきます。再度,生き生きした音の動きの部分に戻った後,ヴァイオリンのカデンツァが出てきます。その後,曲は次第に音の動きを増し,全楽器による激しい音の応酬のような部分になった後,ズシンという感じで全曲が結ばれます。

(参考文献)管楽器の名曲名演奏/伊藤康英(On Books).音楽之友社,1998
(2004/09/25)