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バルトーク Bartok
弦楽のためのディヴェルティメント Sz.113 Divertiment for string orchestra
第2次世界大戦が始まり,ナチスがヨーロッパを席巻しつつあった頃,潔癖までの正義感で徹底してファシズムを嫌っていたバルトークには憂鬱な日々が続きました。また,ヨーロッパ各地の民俗音楽の研究をしていたバルトークにとって,ナチス・ドイツの勢力拡大は,民謡収集が不可能になることを意味していました。

そんな時,指揮者のパウル・ザッハーがバルトークに夏の間,スイスのグリュイェール山中の別荘を提供し,休養を取ることを薦めました。その1939年8月2日から19日までのわずか2週間の間に書かれたのがこの曲です。1930年代のバルトークは,創作力の絶頂にあり,戦争の不安と古典的な構成感を持った多くの傑作を発表しましたが,このディベルティメントは,その最後を飾る名作といえます。

ハンガリーの民俗的な舞曲や歌謡の片鱗をみせつつ,去ろうとする祖国への熱い思いを描いた曲です。束の間のしあわせの時期の作品ということで,暗い色調の中にも明るい色調を持っているのが特徴で,バルトークの曲の中でも特に親しみやすい曲となっています。

初演は1940年パウル・ザッハー指揮バーゼル室内管弦楽団によって行われました。その4ヶ月後,バルトークはアメリカに旅立ち,二度とヨーロッパには戻りませんでした。

第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ,9/8,自由なソナタ形式
ディヴェルティメントというタイトルは付いていますが,どちらかというとバロック時代のコンチェルト・グロッソの形を取っています。第1,第2ヴァイオリン,ヴィオラ,チェロの各グループからの1名ずつのソリスト群(ソロ)と弦楽合奏(トゥッティ)を対比させながら曲は進んで行きます。

第1楽章は,冒頭,8分音符で「ザッ,ザッ,ザッ,ザッ...」と刻まれる部分がとても印象的です。このリズムは,第2ヴァイオリン以下によって野性的に演奏され,かなり民族的ですが,同時にロックを思わせるような現代的な雰囲気も持っています。この上に,第1ヴァイオリンが流れるようなメロディを歌います。これが繰り返された後,4人のソロによって,イ長調の第2主題が演奏されます。トゥッティで激しく演奏された第1主題と見事なコンラストを見せます。

その後,展開部への推移部になります。この部分では第1主題の動機が対位法的な展開を見せますが,時々,全楽器で演奏される「タタータ」というシンコペーションのリズムが印象的です。このリズムは,その後もかなり執拗に出てきます。

展開部は変ロ長三和音に支えられた第1主題で静かに始まります。その後,カノン風になったり,上述のシンコペーションのリズムが現れたりします。次第に高揚し,クライマックスを築いた後,再現部になります。再現部は,ヘ音の持続低音を持つ,ニ短三和音の上に第1主題が静かに演奏されて始まります。第2主題は変ホ長調で再現されます。続く,推移の部分でも次第に激しい気分になり,トゥッティのリズムが導かれます。強弱の対比の大きな緊迫感のある部分の後,気分が和らぎ,コーダに入ります。

コーダは第1主題によっており,リディア調の三和音の清澄な響きの上に対位法的な戯れを見せます。最後はさらに静かになり,平静さの中で楽章が閉じられます。

第2楽章 モルト・アダージョ,4/4,三部形式
弱音器をつけたヴィオラ,チェロ,コントラバスが演奏する短二度の波動の上に,第2ヴァイオリンが半音階的なメロディを演奏します。いかにもバルトークらしい,夜の気分が漂います。このメロディをヴィオラ,第1ヴァイオリンが繰り返し,段々と高潮していきます。

しばらくして,突然,ffで鋭い音がなり,弱音器をはずしたヴィオラがハンガリー風の美しいメロディを演奏します。これが繰り返された後,中間部の第2部になります。ここでは,完全4度の跳躍を持つ動機がオスティナート風に低音で繰り返されます。ヴァイオリンがその上でトリルを持つメロディを演奏しますが,上行するに従って音量も増し,大きなクライマックスを築きます。

これが静まった後,最初の部分が再現されます。ただし,クライマックスでは,また別の新しいメロディが出てきます。楽章は嬰ハ音で終わり,そのまま引き続いて,第3楽章になります。

第3楽章 アレグロ・アッサイ,2/4,長いコーダを持つロンド・ソナタ形式
楽章全体は,A−B−A’−C−A−B−A’−コーダという形で書かれています。

短く活発な序奏の後,ヘ長調で生き生きとしたロンド主題(A)が演奏されます。この主題は,ソロが演奏した後,トゥッティが反復するということを繰り返して呈示されます。最後の部分がユニゾンになった後,Bの部分になります。まずニ短三和音がリズミカルに演奏された後,イ音を中心とした荒々しい部分になります。ここでもソロの後,トゥッティが出てきます。優雅な付点リズムを持つ部分の後,再び,ロンド主題(A’)が出てきますが,ここではかなり変形されています。不協和音がffで伸ばされて,最初のA−B−A’の部分が終わります。

Cの部分は力強いユニゾンで始まります。この主題は,4度の跳躍持つエオリア調のもので,フガート風に展開されていきます。このCの部分はかなり長く,ソロ・ヴァイオリンによるジプシー風のカデンツァも出てきます。ハ長調の属7の和音でこの部分が終わります。

その後,A−B−A’の部分が反行形で再現されます。調性はハ長調で,主題はより装飾的になっています。トゥッティのユニゾンによる推移部の後,コーダになります。

まず,短二度による3連符の速い音形の上で,Aのロンド主題が多様な形でヴァイオリンとチェロに現れ,大きく盛り上がります。これが静まった後,意表を突くような形で,ピツィカートの音が登場し,ヴァイオリン,チェロ,コントラバスがちょっと優雅な雰囲気のあるメロディを演奏します。これまでの荒々しさとは別世界の音楽が挿入されたようで,大変印象的です。しかし,これもすぐに終わり,再度嵐のような気分に戻ります。途中,一旦中断され4人のソロの絡み合いが出てきますが,それが途絶え,長二度の長い不協和音の後,ヴィヴァーチェッシモとなって,一気に駆け抜けるように曲が終わります。

(参考文献)最新名曲解説全集管弦楽曲3
(2007/11/04)