ベートーヴェン Beethoven

■序曲「コリオラン」op.62

ベートーヴェンの作曲した序曲の中では,「エグモント」序曲と並んで有名な曲です。この曲は,「コリオラン」という戯曲からインスピレーションを得て作られたものですが,劇音楽の方は書かれていません。単独の管弦楽曲の中でドラマの雰囲気を伝える曲,ということで交響詩のような作品とも言えます。

この戯曲の題材となった「コリオラン」というのはプルタークの「英雄伝」に登場する,ローマの英雄で,ただ一人でコリオーライの城を攻め落としたため「コリオラヌス」と呼ばれるようになった人物です。最終的に,コリオラヌスは謀殺されていますので,音楽にも悲劇的な雰囲気が漂っています。「ハ短調」「アレグロ・コンブリオ」という「運命」と同じ調性・表情記号で書かれていることもあって,「いかにもベートーヴェン」という作品となっています。

曲は弦楽器によるフォルティシモで始まります。「ドー」の音のユニゾンの後,緊張感に富む暗い和音が続きます。その後,総休止が入ります。これが数回繰り返されます。この曲では,他の部分でも総休止が緊張感を生む効果を上げています。続いて第1ヴァイオリンとヴィオラによってスタッカートで出される主題は主人公コリオランの野心を描いた第1主題といわれています。

その後,対照的な第2主題が出てきます。こちらは,弦楽器によってなだからに演奏されます。ほっと一息付くような雰囲気は,母や妻を象徴していると言われています。展開的な部分が続いた後,再現部になります。コーダはかなり規模の大きいものです。両主題が展開された後,最後は息が絶えたかのように最弱音のピツィカートで結ばれます。(2003/05/03)