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ベートーヴェン Beethoven
ピアノ協奏曲第3番ハ短調,op.37
”1800年”という区切りの年に作曲されたこの曲は,ベートーヴェンにとっても画期的な作品となりました。この曲は,古典的な協奏曲にも関わらず,管弦楽のみによる序奏部から従来の協奏曲以上にシンフォニックで充実した響きを聞くことができます。管楽器も伴奏だけではなく主役的な活動もし,独奏ピアノもキメ細かくかつスケールも大きい演奏を展開します。

全体の楽章構成は伝統的な形式に従っていますが,その内容は,ハ短調という調性どおり"運命的","情熱的"で,「奇数番号のベートーヴェン」らしい熱と力を持っています。ただし,こういう独特な内容を持つ協奏曲を書くようになった理由は,実はよく分かっていません。この頃からベートーヴェンの耳の異常が顕著になり始めていますが,そういったベートーヴェンの内面が曲の表現となって反映した曲なのかもしれません。

この曲は,「大協奏曲」として自信を持って出版されましたが,初演ではあまり受けなかったようです。

第1楽章 アレグロ・コン・ブリオ,ハ短調,2/2,協奏曲風ソナタ形式
まず,弦楽器だけで,暗さと熱を秘めた第1主題がひっそりと演奏されます。その後,管楽器が加わり,徐々にこの主題は力を増していきますが,今から何が始まるのだろう?という緊迫感と抑制された気分は交響曲の出だしを思わせるところがあります。第2主題はヴァイオリンとクラリネットによって優しく柔らかに歌われます。

第1主題がカノン風に再帰した後,ピアノが登場し,独奏呈示部が始まります。このピアノの入りの部分は,上行する音階になっています。何の飾りもなくシンプルに「ドレミ♭ファソラシド」と出てくる力強さは非常に新鮮です。この独創的かつドラマティックな部分に続いて第1主題部となります。ここでは,管弦楽呈示部の時よりも装飾的になっています。第2主題もピアノで弾き始められた後,管弦楽が受けます。

展開部は,管弦楽で始まり,ピアノと密度の濃い対話をします。ここではもっぱら第1主題が扱われます。管弦楽が力強く第1主題をはっきりと再示して,再現部になります。コーダに入る部分でカデンツァが挿入された後,例の音階のパッセージを交えて力強く締めくくられます。

ベートーヴェンは,この楽章のカデンツァとして,64小節のものと145小節のものの2種類を作っています。一般にはルドルフ大公のために作られたという前者が知られています。後者は,未出版で誰のために作られたものかは不明です。

第2主題 ラルゴ,6/8,ホ長調,3部形式
ハ短調の第1楽章に対してこの楽章はホ長調という非常に遠い関係の調性で書かれています。第1楽章とは全く別世界に入ったような,やさしく穏やかな第1部はピアノで始まります。管弦楽は弱音器を付けて,これに応答します。時々ほの暗い感じになる辺りなど,同時期に書かれた交響曲第2番の第2楽章に通じる気分を持っています。

第2部は第1ヴァイオリンの抒情的なメロディで始まります。ピアノによるアラベスク風の装飾的なフレーズと管楽器との絡み合いが続き,どんどん深い境地に入っていきます。第3部は第1部の再現で始まります。ここでも第1楽章同様,ピアノに上行する音階のが数回繰り返し出てきますが,この楽章では大変デリケートに演奏され,何とも言えずロマンティックな気分をかもし出します。短いカデンツァの後,曲は消えるように弱くなった後,最後に強い和音が演奏されて締めくくられます。

この楽章では,管弦楽の編成が前後の楽章よりも小さくなっていることもあり,全曲中のオアシスのような感じになっています。

第3楽章 ロンド,アレグロ,ハ短調,2/4
独奏ピアノによって演奏される,ちょっとエキゾティックで軽やかな主題で始まります。これがロンド主題として何度も出てきます。これがエネルギッシュに動き回ります。しばらくすると木管楽器と打楽器がハ短調の和音を「タンタカタン」と演奏した後,ピアノが上昇する分散和音を繰り返し演奏する印象的な部分になります。その後,気分が変わり,晴れやかなメロディが出てきます。

ロンド主題が再現した後,今度は木管楽器によるのどかな主題が後を受けます。楽章の後半ではロンド主題によるフガートになり,緊張感が次第に高まります。その後,またロンド主題などが再現しますが,ピアノのカデンツァ風の部分に続いて出てくるコーダでは,速度をプレストに増して,興奮を増します。ここでは,霧が晴れたようにハ長調に転調し,ロンド主題に基づく主題で全曲が力強く締めくくられます。(2007/09/02)