ベートーヴェン Beethoven

■ピアノ協奏曲第4番ト長調,op.58
ベートーヴェンの曲は,重くて,ドラマティックで,しつこくて,スケールが大きくて,力感にあふれて...というイメージを持たれることが多いですが,この曲は,軽やかで,優美で,さわやかで...と全く逆の雰囲気を持っています。交響曲第5番と第6番「田園」とが対をなすような感じで,この曲は,皇帝協奏曲と対をなしています。「田園」がそうであるように,ベートーヴェンの別の側面を見せてくれる名曲です。

ただし,曲の作り方には,革新的なところ,ベートーヴェンらしいところがたくさんあります。例えば,第1楽章冒頭いきなりピアノ・ソロで始まるのは,皇帝と同じです。また,この主題の「ターン,タ・タ・タ・タ」というリズムをひっくり返すと「タ・タ・タ,ターン」となり「運命の主題」になります。これを徹底的に繰り返し,展開していく当たりも,ベートーヴェンらしいところです。最後の2つの楽章が続けて演奏されるのも交響曲第5番や「皇帝」の作り方と共通しています。

というわけで,この曲は,いわゆる「傑作の森」と呼ばれたベートーヴェンの創作意欲がいちばん活発だった頃に作られた,ベートーヴェンらしさのあふれた曲とも言えます。

第1楽章
協奏曲風ソナタ形式ですが,上述のように「ターン,タ・タ・タ・タ」といきなりピアノ独奏で第1主題が始まります。ベートーヴェンは,古典派とロマン派の中間の作曲家と言われますが,この冒頭の詩的な味わいはロマン派にかなり近いのではないかと思います。少しミステリアスだけれどもとても美しい魅力的な曲の始まりです。この主題をオーケストラが引き継いでいきます。第2主題の方は,穏やかに弦楽器で演奏されます。再度,ソロピアノが出てきて,独奏呈示部になります。ここでは新しい第2主題も登場します。展開部は,主に第1主題を中心に展開されます。叙情的な曲と行っても展開部はベートーヴェンらしく,念入りに展開され,再現部の直前には力強く華麗に第1主題が出て来ます。楽章の最後にカデンツァが置かれています。

第2楽章
弦楽器とピアノが交互に主題を演奏し,対話をするように進んで行きます。短い割に印象的な楽章です。弦楽器の方は強く主張してくるようなはっきりした感じの主題です。それを受けるピアノの主題の方は静かに歌うような感じです。そのまま静かに消えるように次の楽章に繋がって行きます。

第3楽章
弦楽器の弱音で弾むような明るい主題が出てきます。前の楽章との気分の転換が見事です。続いて,ピアノも同じ主題を演奏しますが,その裏で弾いているチェロの伴奏もとてもきれいです。この楽章は,この主題が何度も繰り返し出てくるロンドです。この主題が元気良く展開されていきます。副主題は,ピアノの高音で優しく出てきます。カデンツァの後にコーダがついて,明るく元気良く締められます。明快な爽やかさに溢れたとても魅力的な楽章です。(2002/3/30)