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ベートーヴェン Beethoven
ピアノ・ソナタop.27

1800〜1801年,ベートーヴェンの30歳前後に書かれた2曲のピアノ・ソナタです。この2曲には「幻想曲風ソナタ Sonata quasi una Fantasia」と題されています。この時期のベートーヴェンは,ピアノ・ソナタを通じて,いろいろな試みを行っていますが,この2曲はそういう意欲の現れといえます。

■第14番嬰ハ短調,op.27-2「月光」
ベートーヴェンのピアノ・ソナタの中でも最も有名な作品の一つです。その理由は,この「月光」というタイトルによるところが大です。ただし,この呼び名はベートーヴェン自身が付けたものではなく,詩人のレルシュタープがこの曲の第1楽章を「月光の差すスイスのルツェルン湖に揺らぐ小舟のよう」と形容したことに端を発していると言われています。

このタイトルが,世界的にこれだけ親しまれているのは,「まさにその通り」と感じる人が多いからでしょう。「幻想曲風ソナタ」のタイトルどおり,文学的なイマジネーションを広げてくれる曲です。

曲は楽章を追うごとにテンポが速くなっていく構成を取っています。ソナタ形式ではなくゆっくりとした幻想曲風の第1楽章。独特な軽さを持つ第2楽章。当時のピアノ・ソナタには類を見ないほどの激しさを持った第3楽章という独特の構成となっています。

この作品は,伯爵令嬢のジュリエッタ・グィチアルディに献呈されています。ベートーヴェンは,この14歳年下の女性に恋愛感情を持ちますが,結局,この恋愛は実を結びませんでした。第2楽章の幸福感,第3楽章の溢れる情熱と,作曲の背景とを結びつけて考えたくなりますが,これもまた文学的な解釈で事実とは違うようです。

第1楽章 アダージョ・ソステヌート,嬰ハ短調,2/2,3部形式
静かに流れるように3連音符が続き,全編に渡り茫洋とした幻想味が漂う楽章です。2種類のメロディが交錯しますが,それほど大きな違いはありません。中間部では,3連音符が高音部に上がっていき,不安な表情を見せます。その後,最初の部分が戻った後,基本動機が低音部に出てくるコーダで楽章を閉じます。

2楽章 アレグレット,変ニ長調,3/4,3部形式
メヌエットのようでもありスケルツォのようでもあるけれども,そのどちらでもない独特の軽さを持った楽章です。リストは,この楽章のことを「2つの深遠の間の一輪の花」と読んでいます。

レガートとスタカートが呼応するような軽妙な主題が変奏された後,引きずるような独特のリズムを持ったトリオとなります。その後,最初に戻ります。

第3楽章 プレスト・アジタート,嬰ハ短調,4/4,ソナタ形式
堂々たる構成,情熱が奔流するピアニスティックな効果など,ベートーヴェンの書いたピアノ曲の中でも特に聞き応えのある楽章となっています。

冒頭から,荒れ狂うようにクレッシェンドしながら高音に駆け上がった後,叩きつけるようなスフォルツァンドが続く第1主題が繰り返されます。フェルマータで一息ついた後,経過部となります。その後,嬰ト短調で,旋律的な第2主題が出てきます。第1主題とのコントラストが素晴らしい効果を発揮した後,緊迫感に満ちた新しい楽想が登場し,小結尾となります。

ここまでが反復された後,展開部となります。両主題が扱われた後,ppまで音力を落とし,再現部となります。ここでは経過部が省略され,コンパクトになっています。

コーダはかなり規模が大きく,両主題を出した後,一旦,アダージョになりますが,再度最初のテンポに戻り,小結尾の主題を交えて大きく盛り上がり,ffで全曲が結ばれます。
(2006/06/29)