ベートーヴェン Beethoven

■ピアノ三重奏曲第4番変ロ長調op.11「街の歌」
Piano Trio No.4 in B flat major, op.11

ピアノ三重奏といえば,通常はヴァイオリン,ピアノ,チェロという編成ですが,この曲はクラリネット,ピアノ,チェロのためにかかれた曲ですが,特にクラリネットという楽器に興味があったから書かれたわけではなく,現在では通常のピアノ三重奏の形で演奏されることの方が多くなっているとのことです。

この作品はベートーヴェン初期の作品ですが,全体の気分が明るく,大変流れ良くまとまっていますので,当時から大変人気の高かった作品です。この曲が「街の歌」と呼ばれるのは第3楽章の主題が当時,ウィーンの”街”で人々がよく歌っていたオペラアリアに基づいているためです。

第1楽章 アレグロ・コン・ブリオ 変ロ長調 4/4 ソナタ形式.
全楽器のユニゾンで力強く下降していく第1主題で始まります。その後,のんびりとした気分で晴朗なメロディが続きます。ピアノが中心となった経過部がしばらく続いた後,一区切りがつけられ軽妙なニ長調のメロディが出てきます。ただしこれは第2主題ではなく,その後,ニ長調に転調された後,クラリネットによって演奏されるのが第2主題です。この主題はチェロのリズミカルな伴奏の上に伸びやかに出てきます。この主題がピアノで繰り返された後,小結尾となり呈示部は結ばれます。この呈示部は繰り返されます。

展開部は呈示部中のニ長調のメロディで始まります。これが次第に華麗に展開されて行きます。やがて低音部に第1主題が出てきて再現部の準備がされます。再現部では,ニ長調のメロディは省略されています。コーダは第1主題による簡潔なもので,強音と弱音が交替しながら進んでいくものです。最後は力強く結ばれます。

第2楽章 アダージョ 変ホ長調 3/4簡潔なソナタ形式
ピアノの静かな伴奏の上にチェロの独奏でゆったりとした流れの良い第1主題が出てきます。この気分は楽章を通じて続き,簡潔ながらも荘重な雰囲気を持った楽章となっています。この主題はクラリネット,ピアノの順に引き継がれていきます。第2主題も同じような気分のゆったりしたもので変ロ長調で現れます。

展開部では,曲想が短調になります。各楽器が模倣しあった後,チェロに第1主題の動機が出てきて再現部に入っていきます。ここではクラリネットとチェロが対話をするように美しく進んで行き,第1主題の動機によるコーダで静かに終わります。

第3楽章 アレグレット 変ロ長調 4/4
主題と9つの変奏,コーダからなる楽章です。先に書いたとおりこの変奏曲の主題は,当時ウィーンで初演されたばかりのヴァイグルの歌劇「海賊」の中のアリアを転用したものです。

この主題は三部形式からなるもので,チェロの伴奏の上にピアノとクラリネットによって「鼻歌まじり」という感じで軽快に演奏されます。その後,次のとおり9つの変奏が続きます。
第1変奏:ピアノ独奏
第2変奏:クラリネットとチェロのみの対話
第3変奏:クラリネットの高音で始まり,情熱的に展開されます。
第4変奏:短調になります。ピアノと他の2楽器との対話。
第5変奏:長調に戻り華麗な表情を見せます。
第6変奏:弱音になり独特のリズムの上に演奏されます。
第7変奏:再度短調になります。ピアノの行進曲風の伴奏の上に他の2楽器が動機を切れ切れに演奏します。
第8変奏:再度長調に戻ります。ピアノのスタカートと他の楽器のレガートが対比されます。
第9変奏:もっとも華麗なもの。ピアノは長いトリルを演奏し続けています。

コーダは最初の変ロ長調に戻り,晴れやかに全曲が結ばれます。
(参考文献)
作曲家別名曲解説ライブラリー3.ベートーヴェン.音楽之友社,1992
(2004/09/25)