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ベートーヴェン Beethoven
ピアノ三重奏曲op.70

ベートーヴェンの作品70の2曲のピアノ三重奏曲は,作品番号からも分かるとおり,1808年のいわゆる「傑作の森」の時代に書かれた作品です。もともとは1曲として書く予定だったものを2曲に分けたと言われている曲で,同時期の他の曲に比べると少し影の薄いところもありますが,3つの楽器の緊密度高さをはじめ,中期のベートーヴェンらしい構築度の高い作品となっています。2曲の中では,「幽霊」というあだ名の付いた第5番の方が演奏される機会が多いようです。両曲とも,エルデーディ伯爵夫人に献呈されています。

■第5番ニ長調op.70-1「幽霊」
第1楽章
 アレグロ・ヴィヴァーチェ・エ・コン・ブリオ,ニ長調,3/4,ソナタ形式
冒頭から猛烈な勢いで3つの楽器による力強いユニゾンで曲が始まります。ここだけ聞くと「なぜ,この曲が「幽霊」?」と感じますが,「幽霊」は2楽章に現れます。その後,チェロだけが抜け出し,ゆったりとしたメロディを演奏します。このメロディを他の楽器が模倣しながら進んでいきます。イ長調に転調した後,弦楽器がユニゾンで上下する穏やかな第2主題を演奏します。これが静まって呈示部が終わります(ここで冒頭に戻り繰り返されます)。

展開部は第1主題の展開が中心です。その後,第1主題が冒頭同様にはっきりと現れて再現部になります。第2主題がニ長調で再現された後,再度,展開部以下が繰り返されます。第1主題に基づいたコーダは弱音で始まり,それが次第に盛り上がり最後は冒頭の力強い動機で締められます。

第2楽章 ラルゴ・アッサイ・エデスプレシーヴォ,ニ短調,2/4,展開部を欠いたソナタ形式
全編に渡り,不思議な幻想味に満ちた楽章です。両端楽章との落差が大き過ぎると感じられるぐらい,そのニックネームどおりの雰囲気を持った楽章となっています。

第1主題は弱音で演奏される弦楽器のユニゾンの動機にピアノが答えるものです。このピアノの動機がその後も何回も繰り返されます。途中からピアノはドロドロドロドロ...とトレモロで伴奏を始めますがこれが特に気分を盛り上げています。第2主題はヘ長調で現れますが,第1主題との対比は大きくなく,不安定な気分がずっと続きます。その後,クレッシェンドをして,フォルテシモに達した後,最初の部分に戻り,再現部になります。ここでは第2主題もニ短調で演奏されます。コーダでは,全楽器が細かい音符を激しく演奏した後,次第に音力を弱めて楽章を閉じます。

第3楽章 プレスト,ニ長調,2/2,ソナタ形式
前楽章の「幽霊」を追い払うような明朗な楽章です。フェルマータが2回入って立ち止まりながら進んでいくような,ピアノを中心とした爽快な序奏に続いて,弦二重奏による流れるような第1主題が始まります。その後も流暢に曲は進んで行きます。第2主題はスタッカートによる同音反復が印象的な軽妙なものです。その後,比較的長い小結尾となり,華やかに盛り上がり呈示部が終わります(ここで冒頭に戻ります)。

展開部では,第1主題が展開されます。その後,第1主題がピアノに力強く現れ,再現部となります。ここでは第2主題もニ長調で演奏されます。コーダでは,弦楽器がさかんにピツィカートを演奏します。そのうちにピアノが華麗に弾きまくる部分になり,最後は大きくクレシェンドをし,力強く全曲が結ばれます。(2007/06/17)