ベートーヴェン Beethoven

■交響曲第1番ハ長調,op.21
ベートーヴェンの作曲した9つの交響曲は,いずれも交響曲史上に残る不滅の作品です。この曲は,その最初の作品ということで,記念碑的な作品です。とても若々しく,瑞々しい作品ではあるのですが,その一方,「満を持して作った作品」という完成度の高さを持っています。ベートーヴェンは,ピアノ・ソナタを32曲作ったのに対して,交響曲は9曲しか作っていません。どちらが上ということはありませんが,ベートーヴェンにとっては,「ピアノ・ソナタが「日記」,交響曲は「大論文」」という比喩も当てはまりそうです。

この曲が初演された時,ベートーヴェンは29歳でした。すでにピアノソナタを10曲ほど,弦楽四重奏曲を6曲ほど書いています。同時期に書いている作品には,ピアノ・ソナタ「月光」,ヴァイオリン・ソナタ「春」などがあり,名声を確立しつつある時期の作品といえます。

その一方,ベートーヴェンの他の交響曲に比べると,ハイドンやモーツァルトといったウィーンの先輩作曲家の影響が顕著です。古典的な様式美の中にベートーヴェンの新鮮な感覚やアイデアが垣間見える魅力的な作品といえます。

第1楽章
「アダージョの序奏+ソナタ形式による主部」という構成で出来ています。この序奏ですが,非常に個性的な和音で始まっています。この曲はハ長調の作品なのですが,最初にヘ長調の属7和音という意外性のある響きで始まっています。最初の交響曲の最初から「新しさ」を感じさせるのはベートーヴェンらしいところです。その後,ゆっくりと調性を探るような感じですすみ,次第にハ長調に入っていきます。

主部の表情記号は,ベートーヴェンらしく「アレグロ・コン・ブリオ」で,活気のあるものとなっています。この主題はモーツァルトの「ジュピター」交響曲の第1楽章の主題と似ていると言われていますが,「ジュピター」の威厳のある落ち着きに比べると,よりリズミカルで可愛らしい感じがします。第2主題はオーボエとフルートが和やかに掛け合いをするような楽しげなものです。第1主題に基づく小結尾があり,呈示部は終わります。

展開部は,第1主題の素材に基づいて劇的に盛り上がります。再現部は全楽器で力強く始まります。呈示部の自由な再示の後,コーダがついて第1楽章が結ばれます。

第2楽章
この楽章もソナタ形式で作られています。まず,第2ヴァイオリンによるおだやかな第1主題で始まります。その後,この主題を模倣するように進んでいきます。この主題はモーツァルトの交響曲第40番の第2楽章の冒頭と似ていると言われています。第2主題は途中に休符を挟みながら上下する独特な流動感を持っています。しばらくしてティンパニが聞えて来るのも印象的です。

展開部はそれほど長いものではなく,第2主題の展開で始まります。ここでもティンパニが使われています。しばらくして第2ヴァイオリンに第1主題が表れて再現部になります。再現部は呈示部よりも対位法的になっています。

第3楽章
楽譜にはメヌエットと書いてありますが,実質はベートーヴェンお得意のスケルツォに近い躍動的な雰囲気を持っています。強弱の対比,レガートとスタッカートの対比などダイナミックなものになっています。最初の主題は,クレッシェンドしながら音階を上って行くようなエネルギーの強さを感じさせるものです。この音楽的な進行は,第4楽章とも関連しています。

トリオは主部と同じ調性で書かれています。木管とホルンが同音を反復するような牧歌的な雰囲気で始まります。その後,主部が再現して終わります。

第4楽章
第1楽章同様「アダージョの序奏+ソナタ形式による主部」という構成で作られています。ベートーヴェンの他の交響曲で第4楽章に序奏がついているのはこの曲と「英雄」だけです(第9は別格ですが)。序奏は,ユニゾンの強烈な響きで始まります。その後,「ドレミ」「ドレミファ」「ドレミファソ」「ドレミファソラシ」...と次第に音階を作っていきます。この辺を聞いていると,ベートーヴェンは実は「ユーモア好き」ということがよくわかります。

この音階が完結し,テンポがアレグロにアップしたところで爽やかに主部に流れ込んでいきます。第2主題も明るく弾む,楽しげなものです。展開部は,この2つの主題を使って時々短調に転調をしながら進んでいきます。呈示部よりも少し短縮された再現部の後,再度第1主題を示し,活気のあるコーダで全曲が結ばれます。(2003/09/28)