ベートーヴェン Beethoven

■交響曲第2番ニ長調,op.36
ベートーヴェンの9つの交響曲の中で,もしかしたらいちばん影の薄い曲かもしれません。コンサートで演奏される機会も少ない曲です。ただし,曲は,一度聞けば分かるように非常に魅力的です。新鮮な叙情性と刺激的なスフォルツァンド(その音だけ強く)の交錯は,他の曲にはない先鋭な感じがあります。ベートーヴェンの交響曲は第3番で大ブレイクしたと言われていますが,その片鱗が随所に見られます。若き日のベートーヴェンのエネルギーと明るさが素直に表れた「かくれた名曲」といえそうです。ちょっと恥ずかしい表現ですが,「ベートーヴェン,青春まっただなか」という作品です(作曲した時は31歳頃なのですが)。

この曲は,ベートーヴェンが書いた「遺書」の名前で有名なハイリゲンシュタットで書かれています。耳の異常に気付いた後,保養に来ていたのがこの場所です。遺書の中に当時の心情を吐露し尽くし,そこから立ち上がった後に書いたのがこの第2番です。ところどころ暗くなる部分はありますが,全体に希望を感じさせる作品となっているのもそのことと関係ありそうです。それとは別に,この作品の明るさには,ベートーヴェンの当時の女性関係も影響していそうです。

第1楽章
この楽章には立派な序奏が付いています。劇的に「ダダーン」と始まりますが,それほど暗くはならず,木管楽器と弦楽器が叙情的に対話をしながら進んでいきます。いろいろな楽器が点描的に絡んでいくのも聞きものです。一瞬,短調になり第9を思わせるような部分もあります。

主部はアレグロ・コン・ブリオというエネルギッシュなものです。序奏の最後にヴァイオリンが下降してきたのを受けて,低弦に第1主題が出てきます。この歯切れの良い主題がいろいろな角度から展開されます。第2主題の方は,木管楽器とホルンで行進曲風にウキウキとした気分で出てきます。第1主題による小結尾で呈示部は終わります。

展開部は第1主題をカノン風に処理していきます。その後,第2主題が展開されます。再現部は,公式どおり2つの主題が再提示されます。コーダは,第1主題によるもので,楽章全体のクライマックスを華やかに築きます。

第2楽章
ベートーヴェンの交響曲の中で最も甘美な楽章の一つです。第1主題は歌曲に編曲されたこともあるもので,情緒たっぷりに歌われます。背後には対位法的に豊かな響きが伴っています。第2主題はヴァイオリンによって愛らしく演奏されます。一貫して,穏やかなリズムに乗って,弦楽器とホルンなどの優しい対話が続きます。

展開部は第1主題を中心に扱われます。激しくなる部分もありますが,どことなく幻想的な雰囲気もあります。再現部では,呈示部はと色合いが少し変えられています。フルートとオーケストラの対話の後,温かみのある雰囲気の中で楽章は閉じられます。

第3楽章
後半の2つの楽章は,第2楽章とは対照的に躍動感に溢れています。第3楽章はベートーヴェンの交響曲の中で始めて登場したスケルツォ楽章です。当時は交響曲の中の舞曲と言えば,メヌエットが常識でしたので,ベートーヴェンの革新性を示していると言えます。フォルテとピアノ,低音と高音がいろいろな楽器で点描的に出てくる,独特のユーモアを持った主題で始まります。中間部は木管楽器で滑らかで始まります。それに続いて,弦楽器の激しい動きが出てくるのも強い印象を残します。

第4楽章
切り裂くような鋭い主題で鮮烈に始まります。この主題は楽章中,何度も出てきます。この主題も第3楽章同様,上下動の大きいキビキビしたもので,スフォルツァンドが生きています。続いてチェロに柔らかい響きのメロディが出てきます。その後,木管に出てくる下降するメロディが第2主題です。これが盛り上がって呈示部は終わります。

続いて,第1主題を中心とした展開部になります。ユーモアと劇的な効果が合わさったものです。短調になった後,また気分が明るくなり,再現部になります。コーダはひっそりと始まり,次第に情熱的に盛り上がり,華やかに,そしてベートーヴェンらしくちょっとしつこく,結ばれます。いずれにしてもとても上機嫌なベートーヴェンです。(2003/03/16)