ベートーヴェン Beethoven

■交響曲第4番変ロ長調,op.60
この交響曲は「英雄」「運命」という2曲の間に書かれた曲ということで,「2人の巨人にはさまれた美しいギリシャの乙女」と評されることもあります(シューマンの言葉ですが,巧いこと言うものです)。「英雄」で古典的な枠組みを打ち破るようにスケールアップした曲を書いたベートーヴェンですが,この曲では再び古典的な均衡のある世界に戻っています。そういう面では交響曲第2番と似たタイプの曲と言えます。

この曲を作曲した頃のベートーヴェンは,女性関係が非常にうまくいっていたらしく,そのことが曲の性格にも反映しています。「運命」よりも先に書き始めたのに,それをひとまず置いといて,4番の方を一気に書き上げています。古典的な雰囲気を感じさせながらも,所々若々しい疾走感を感じさせるのもそのためでしょうか?

第1楽章
この楽章は「ゆっくりとした序奏+アレグロの主部」という構成になっています。序奏には神秘的なムードが漂っています。その中には主部の第2主題の芽のようなモチーフが既に含まれています。序奏の終わりではクレッシェンドをし,エネルギーを開放するかのように主部になだれ込みます。

主部の第1主題は非常に歯切れ良く簡潔な雰囲気のあるものです,序奏の最後の部分の激しさを保ちながら進んでいきます。第2主題は木管楽器を主体とした軽快なものです。その後,クラリネットとファゴットが追いかけっこ(カノン)をするように展開します。展開部は,第1主題を中心に扱っています。ティンパニがドロドロドロと静かに演奏するのが印象的です。段々力を増していったあと,再度元気良く第1主題が再現します。ほぼ型どおり再現された後,さっぱりとしたコーダで元気良く結ばれます。

第2楽章
展開部のないソナタ形式で書かれています。明るく伸びやかなメロディが聞き所ですが,それと対照的に出てくる「タッタ,タッタ」というリズムも印象的です。第2主題はクラリネットによって憧れをこめるように歌われます。幻想的な気分もあります。途中,一時短調に変わる部分がありますが,また穏やかな気分に戻ります。楽章の最後には管楽器などのソロが出てきた後,ティンパニの独奏が出てきて終わります。

第3楽章
明記されていませんがスケルツォにあたる元気の良い楽章です。快活に上下に動くような主題はちょっとユーモラスです。弦楽器と管楽器が対話をするような感じで進んでいきます。中間部は牧歌的なトリオです。オーボエとファゴットがのんびりとしたメロディを演奏した後,いろいろな楽器が引き継いでいきます。

第4楽章
この楽章も快活な楽章です。弦楽器による「タカタカタカタカ...」という速い動きを持つ第1主題と木管楽器がのどかに歌う第2主題から成っていますが,気分的には,無窮動のような第1主題の速い動きで一貫しているような印象のある楽章です。展開部も動きの速いまま第1主題を中心に扱われます。再現部でも同じ気分が続きます。特にファゴットがこの速い主題を演奏する部分が聞き所です。奏者からすると難所ということになります。終結部は第1主題の動機がゆっくりと出てきた後,またテンポがアップしてキレ良く終わります。

この楽章のテンポ設定には,2つの説があると言われています。メトロノームの指示によると物凄く速いテンポになり,ファゴットなどは演奏不可能になってしまうのですが,楽章の指示の方は「アレグロ・マ・ノン・トロッポ(アレグロだけどあまり速すぎないで)」ということになっています。この指示は,田園交響曲の第1楽章と同じですので,その説で行くとかなりのどかなものになってしまいます。指揮者がどういうテンポを取るかも演奏を聞く楽しみの一つとなります。(2003/05/25)