ベートーヴェン Beethoven

■交響曲第9番ニ短調op.125「合唱付き」
通称,「第9(ダイク)」と呼ばれる,ベートーヴェンの最後の交響曲です。第4楽章に合唱が加わるため,「合唱付き」とも呼ばれます。4つの楽章から成っており,全体で70分ほどかかる大作です。CDの収録時間は,フルトヴェングラー指揮の「第9」を1枚に納めるために決められた,という説があります。その真偽はわかりませんが,その説がある程度納得できるのは,「第9」にはすべてのクラシック音楽を代表するような威厳と魅力が備わっているからだと思います。

この曲ですが,実は,オーケストラの定期公演で取り上げられることは滅多にありません。というのも,「第9は,餅代稼ぎのために年末にやる」という不文律のようなものが日本では定着してしまっており,「年末特別公演」といった形でしか演奏されないからです。いずれにしても,年末に第9を演奏するというのは,日本的習慣のようです。欧米では,OEKの新ホールの柿落公演のように,「めでたい時に演奏する曲」ということになっています。東西ドイツが合併した時,長野でオリンピックの開会式など,セレモニーを皆で盛り上げる時には欠かせない曲といえます。

曲の構成ですが,1〜3楽章までは,かなり規模は大きくなっていますが,古典派の交響曲の枠組みの中で作られています。その3つの楽章を4楽章の最初の方で「この音楽ではない」と否定するというのが作曲者の意図です。私自身は,1〜3楽章までも十分素晴らしいと思うのですが...。いずれにしても,1〜3楽章と4楽章の間に雰囲気の違いがあり,「バランスが悪い」と指摘する人もいるようです。第1楽章から順に見て行きましょう。

第1楽章 神秘的でちょっと空虚な静かな雰囲気で始まります。その後,急に深刻な感じでオーケストラが爆発します。旧約聖書の最初の創世記では,最初混沌としていた世界が次第に形になっていく様が描かれていますが,この楽章にもそういう雰囲気があります。これぞクラシックという感じの威厳のある楽章です。

第2楽章 スケルツォということで,おどけてはいますが,豪快な重量感もあります。ティンパニがが派手に活躍しますので,見ているだけでも楽しめます。その他の楽器についてもベートーヴェンの第7交響曲を思い出させるような,リズム感が非常に魅力的です。中間部にはオーボエをはじめとした木管楽器による美しいソロが出てきます。なお,この楽章は,繰り返しの仕方によって演奏時間はかなり変わってくるようです。

第3楽章 第9の中で,いちばん平穏で静かな楽章です。「天国的」な雰囲気があると言われますが,第4楽章に備えて夢の世界に入っているお客さんもちらほら見かけます。その睡眠...ではなく,天国的な雰囲気を破るかのように最後の方にトランペットによる警告のようなフレーズが出てきます。ホルンの美しいソロ(ただの音階なのですが)も出てきます。これらが出てきたら,もうすぐ4楽章になります。ちなみに,4楽章でソロを歌う,4人の声楽家は,3楽章の前に入ってくるケースが多いようです。そうでなければ,最初から合唱団といっしょにいるようです。また,3楽章と4楽章を休まずにつなげて演奏する指揮者も結構います。

第4楽章 第3楽章が静かに終わり,荒れ狂ったように第4楽章が始まります。この部分で先に書いたように1〜3楽章の否定を行います。前の3つの楽章のメロディの断片が順に出てくるたびに,チェロとコントラバスで「このメロディではない」という感じで割り込んできます。まるで対話をしているようです。最後に小さく出てくるのが「歓喜の歌」のメロディです。ベートーヴェンが求めていた音楽は,こういう単純な音楽だ,ということになるのでしょうか?このメロディが次第に盛り上がってくると,再度,第4楽章の冒頭と同じ音型が出てきます。この瞬間,大体合唱団がバッと立ち上がります。この光景を見ると,「年末だな」と感じるのは私だけでしょうか?その後,バリトンの独唱が始まります。日本語で書くと「オー,フローーーーインデ」(日本語でない?)という感じです。ちなみに第9の歌詞はすべてドイツ語です。これは「おお友よ」という意味です。実は,この部分は,ベートーヴェン自身が作った歌詞です。その後,始まる「フロイデ,シェーネル...」という有名な「歓喜の歌」の部分はシラーの詩です。その後,合唱がこの部分を喜びいっぱいに歌う有名な部分が続きます。その後,急に神秘的な雰囲気になったり,トルコの軍楽隊的な伴奏の上で,テノールの独唱が始まったりと多種多様に展開していきます。次第に雰囲気が高まり,2重フーガになります。最後は,「人類みな兄弟」といった興奮した雰囲気で全曲が終わります。(2001/9/9)