ベートーヴェン Beethoven

■三重協奏曲ハ長調,op.56

ベートーヴェンの"作品56"といえば,作品55「英雄」の次,作品57「熱情」の一つ前。その他にも「ラズモフスキー四重奏曲」とか,充実した傑作が,この辺りにはゴロゴロと連なっています。その中で,この三重協奏曲は,可哀想なことに「駄作」と呼ばれることの多い作品です。確かに,これらの「傑作」と比べると,何となく冗長な雰囲気はあるのですが,これは,比較する相手が悪いのではないかと思います。ベートーヴェンらしい力強さもあるし,独奏楽器の掛け合いの美しさもあります。ソリストが3人揃う曲なので,実演ではステージ上の雰囲気は大変華やかになります。

物足りないと感じさせる理由は,ピアノ三重奏とオーケストラを組み合わせた点にあると思います。ピアノ三重奏というのは,オールマイティな組み合わせで,オーケストラ的な響きを出せる最小限の組み合わせだ,と言われています。それとオーケストラとを対比させるというのは,面白いけれども作曲技法上難しい点があるのだと思います(この曲以外にあまり見かけません)。

それと,この曲はチェロのパートが非常に難しく,ピアノのパートが非常に易しく書かれています。これは,初演者がベートーヴェンのパトロンだったルドルフ大公のために書かれていることと関係があるようです。このアンバランスが作曲上の制限になったのかもしれません。音楽評論家の渡辺和彦氏は,「この曲はヴァイオリンとピアノのオブリガート付きチェロ協奏曲と考えるのが良い」と書いていますが,チェロの名技性に注目しながら聴くのがいちばん良いのかもしれません。曲は,「長大な第1楽章+短い2楽章,切れ目なく舞曲風の第3楽章」という構成で,ピアノ協奏曲「皇帝」などと似た作りになっています。

第1楽章 
まず,低弦でうごめくような感じの第1主題が出てきます。これがぐっとクレッシェンドしてきます。この辺は「いかにもベートーヴェン」という感じです。歌うような第2主題は第1ヴァイオリンに出てきます。続いてソリストが登場します,まずチェロが第1主題を演奏します(この曲では,独奏チェロから主題が始まるケースがほとんどです)。続いてヴァイオリン,ピアノが登場します。しばらくピアノ三重奏のような感じが続いた後,オーケストラのトウッティで一区切り付き,続いて,第2主題がチェロで演奏されます。3つの楽器の絡み合いが続き,最後に華やかにトリルが出てきた後,展開部に移ります。最初は,オーケストラの力強いトゥッティで始まります。続いて,ここでもチェロ−ヴァイオリン−ピアノの順にソロ楽器が登場します。次第に音の動きが細かくなり,オーケストラで力強く第1主題が出てきて再現部になります。再現部ではソロ楽器がさらに華麗に活躍します。最後は,ピウ・アレグロのコーダで華美に結ばれます。

第2楽章 
短い間奏曲風の楽章です。弱音器付きの弦楽器の導入に続いて,独奏チェロが美しいメロディをしっとりと歌い始めます。これに続いて,ピアノ,木管,ヴァイオリンが主題を変奏していきます。その後,最初の導入の旋律が登場し,ソロ楽器によるカデンツァ風の部分になります。そのまま切れ目なく第3楽章に移っていきます。

第3楽章 
「ロンド・アラ・ポラッカ」ということでポーランド風の力強さと軽さを兼ね備えたような楽しい楽章になっています。ロンド主題は,ここでもやはり,まず独奏チェロによって演奏されます。各楽器によって繰り返された後,ヴァイオリンに特徴のあるリズムを持った新しい楽想が登場します。第2主題もチェロに出てきます。これを各楽器が繰り返します。ポロネーズのリズムに乗って上向していく第3主題は,まず独奏ヴァイオリンに出てきます。最後は,テンポがアップしたり,独奏楽器群とオーケストラの華々しい応答が繰り広げられたりして,華麗に全曲が結ばれます。(2002/09/07)