ベートーヴェン Beethoven

■ヴァイオリン・ソナタop.12
ベートーヴェンは,子供の頃からピアノの名手として知られていましたが,ヴァイオリンの勉強もしていたことがあるようです。1797〜1798年にかけて作曲された作品12の3曲のヴァイオリン・ソナタは,20代後半のベートーヴェンの作品らしく,モーツァルトのヴァイオリン・ソナタの延長のような軽やかさと若々しさが感じられる曲となっています。3曲とも3楽章構成で書かれており,サリエリに献呈されています。

■第1番ニ長調,op.12-1
第1番は,全体的に若々しく新鮮な創造的なエネルギーに満ちた作品となっています。

第1楽章 アレグロ・コン・ブリオ,ニ長調,4/4,ソナタ形式
第1主題はピアノとヴァイオリンが一体となって演奏する堂々とした和音で始まります。颯爽と上昇した後,だんだんと下がってくる感じの音型が続きます。その後,ヴァイオリン,ピアノの順にゆったりとした気分の流れるような旋律が演奏されます。第2主題も段々と下降してくるメロディですが,こちらはより優美な感じです。

展開部はヘ長調になります。弱音が中心で,細やかな強弱の付けられた呼吸が感じられます。その後,再現部になります。楽章の最後はがっちりとした雰囲気でまとめられます。

第2楽章 主題と変奏,アンダンテ・コン・モート,イ長調,2/4
この楽章は,ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタの代表作「クロイツェル」の第2楽章のを思い出させるような雰囲気があります。優雅に語りかけるような主題の後に,4つの変奏が続きます。第1主題はピアノが中心となりヴァイオリンはサポートに回ります。第2主題はヴァイオリンが中心となり細かい音型で上昇していきます。この辺が特に「クロイツェル」にとてもよく似ています。第3変奏は短調になります。ヴァイオリンとピアノの対話が進むうちに劇的な感じになってきます。第4変奏は一転して静かな世界になります。名残を惜しむような最弱音となって終わります。

第3楽章 ロンド(A-B-A-C-A-B),アレグロ,ニ長調,6/8
6/8拍子らしく軽快に弾むロンドの楽章です。ロンド主題(A)は,最初,ピアノで演奏されます。「タ・ターン・タタタ」という音型が印象的です。このメロディが繰り返し出てきます。第2の主題(B)は,よりリラックスした感じのするものでひっそりと演奏されます。ロンド主題に続いて出てくる第3の主題(C)は,大きな弧を描くように伸びやかなものです。ちょっと憂いも含んでいます。再度,A−Bの主題が出てきた後,コーダとなり溌剌とした雰囲気で結ばれます。(2003/08/20)

■第3番変ホ長調,op.12-3
作品12の3曲の中ではもっとも雄大な感じの曲です。特にピアノ・パートが自由奔放に書かれていることから,「ピアニスト殺し」の曲としても知られているとのことです。3つの楽章の性格づけも明快で,3曲中では最高傑作とみなす人も多い曲です。

第1楽章 アレグロ・コン・スピリート,変ホ長調,4/4,ソナタ形式
ピアニストの指慣らしのような感じの第1主題で曲は始まります。その後,ヴァイオリンとピアノの応答が始まりますが,全般にピアノによる華麗な下降上昇音型が目立つ楽章となっています。第2主題は,穏やかに上昇していくようなもので,第1主題と好対照を成しています。

その後は,ヴァイオリンの方にも素早い6連音が出てくるなど,聞き応えのある応酬が続きます。再現部は定石どおり再現されます。

第2楽章 アダージョ・コン・モルテスプレシオーネ,ハ長調,3/4,3部形式
まず,第1楽章とは打って変わって静かな主題がピアノによって演奏されます。落ち着いた流れが続いた後,冒頭の主題を変形した中間部の主題になります。ヴァイオリンの演奏するメロディをピアノの分散和音が支える形を取っており,ロマン派に近い味の濃さを持っています。その後は再度,ピアノが主旋律を歌って行きます。コーダは幻想的な気分を持ったもので,名残惜しむかのような余韻を残して静かに終わります。

第3楽章 ロンド(A-B-A-C-A-B-A-コーダ),アレグロ・モルト,変ホ長調,2/4
第2楽章と対照的に元気に満ちた凛々しさを持った楽章です。まず,ピアノによって素朴でリズミカルな主題(A)が演奏されます。その後,ヴァイオリンが加わり,開放的な明るい世界が続いた後,ライン地方の舞曲を思わせるような第2主題部(B)になり,さらに上機嫌が続きます。最初の主題(A)が再現された後,第3主題部(C)になります。ここでは少し翳りが出てきます,そのうち,最初の主題が戻ってきます。楽章全体としては,A-B-A-C-A-B-A-コーダという形を取っており,最後はきっぱり,すっきりと結ばれます。(2007/08/18)