ビゼー Bizet

■劇音楽「アルルの女」第1組曲,第2組曲

ビゼーの作品の中では,歌劇「カルメン」と並んで有名な曲です。この曲は,ドーデの同名の戯曲の付随音楽として作曲されたものです。物語は南フランスのアルルに近い農村を舞台にした牧歌的な悲劇です。元々は合唱も含む30曲近くの曲から成っているのですが,その中から数曲選んだのがこの組曲です。現在,演奏されるのは組曲の形のものがほとんどです。

組曲は第1組曲と第2組曲の2つがあります。第1組曲の方はビゼー自身が選んだ4曲すが,第2組曲の方はビゼーの死後,友人のギローが4曲を選んだものです(こちらの方は「アルルの女」の劇音楽以外の曲も含んでいます)。音楽はプロヴァンス地方に伝わるメロディを使い,民族的で牧歌的な雰囲気を出しています。アルト・サクソフォーンが効果的に使われているのも大きな特徴です。

かつてはポピュラー・コンサートの定番のような曲でしたが,近年は比較的,生で演奏される機会が減ってきているようです。それでも,ビゼーのメロディ・メーカーとしての才能と見事な作曲技法が盛り込まれた名曲であることには変わりありません。

第1組曲
(1)前奏曲

劇音楽「アルルの女」全体の前奏曲です。この戯曲の悲劇的な展開を暗示するように,暗い雰囲気で始まります。冒頭の弦楽器と木管楽器のユニゾンで演奏される鮮烈なメロディは大変印象的ですが,これはプロヴァンス民謡の「3人の王の行列」のメロディです。これが変奏されるように繰り返し演奏されます(ちなみにこのメロディは,Da Pumpの曲でも引用されています)。

続いてアルト・サクソフォーンによる甘い雰囲気になります。クラシック音楽の曲の中でこの楽器が出てくることは少ないのですが,この曲では非常に効果的に使われています。その後,ヴァイオリンによって,美しいけれどもドラマを秘めたようなメロディが演奏された後,静かに結ばれます。

(2)メヌエット
優雅さよりは,結構キレ味の鋭い感じのあるメヌエットです。戯曲では,第3幕の前に演奏されます。3部から成っています。最初の部分はヴァイオリンによるスタッカートのメロディが中心です。中間部では,アリト・サクソフォーンとクラリネットによる滑らかなメロディが気持ちよい雰囲気を出します。その後,最初の部分が短縮されて再現されます。

(3)アダージェット
「アダージェット」といえばマーラーの第5交響曲ですが,この「アルルの女」のアダージェットも絶品です。この曲は戯曲では第3幕第1場で使われ,第2場との間奏曲としても使われます。弱音器をつけた弦楽器が穏やかなメロディを繰り返します。原作では,年老いた往年の恋人同志の対話の場面に使われていますが,落ち着いたムードは,その雰囲気にぴったりです。永遠に続いて欲しいような美しさを持っています。

(4)カリヨン
カリヨンというのは鐘のことですが,その音を模倣した力強い響きで始まります。3拍子のリズムが快活に繰り返され,次第に盛り上がってきます。中間部では,2本のフルートがシチリア舞曲風の優しいメロディを演奏します。次第に最初の鐘の音が戻ってきて,最初の部分が再現します。この曲は,戯曲では第3幕第1場開幕直後の祭りの場面で演奏されます。

第2組曲
(5)パストラール

第2幕の開幕に先立って演奏される音楽と開幕後に歌われる合唱をまとめたものです。前奏の方は,緩やかなテンポで幅広く力強い足取りの主題が演奏されます。後者の方は,テンポが速くなって,プロヴァンスの太鼓のリズムに乗った軽やかな主題がクラリネットとフルートで演奏されます。オーボエとピッコロが合いの手を入れるように続きます。その後,前奏の部分が短縮されて繰り返されます。

(6)間奏曲
第2幕第1場と第2場の間で演奏される曲です。重々しい前奏に続いてアルト・サクソフォンがメランコリックなメロディを優しく歌います。続いて,歌うようなメロディが続きます。最後に重々しい前奏の部分が出てきて,結ばれます。

(7)メヌエット
組曲の中でも特に有名な曲です。アンコールなどで単独で演奏される機会も多い曲ですが,実は,「アルルの女」の戯曲には出てこない曲です。元は歌劇「美しいペルトの娘」の中の曲です。ハープの伴奏に乗って,フルートが美しく上向していくメロディを演奏します。この清潔感はフルートのイメージにぴったりです。しばらく,ハープとフルートを中心に演奏されますが,少しずつ他の管楽器が加わってきます。中間部は,オーケストラによる力強い響きの部分になります。その後,最初の部分が戻ってきますが,今度はアルト・サクソフォーンのオブリガートなどが加わっています。最後は,ハープとフルートだけに戻り,静かに終わります。

(8)ファランドール
第1組曲の前奏曲で出てきた「3人の王の行進」がまず力強く演奏されます。続いてプロヴァンスの太鼓のリズムに乗ってファランドール舞曲がテンポアップして出てきます。この舞曲は第3幕で踊られるもので,「馬のダンス」という民謡がもとになっています。この2つの要素が繰り返される間に次第に興奮の度合いが高まっていきます。最後には,この2つが同時に演奏され,華やかに結ばれます。(2003/04/20)