ブラームス Brahms

■ヴァイオリンとチェロのための協奏曲イ短調,op.102
通称「二重協奏曲」とか「ドッペルコンチェルト」とか呼ばれている曲です。バロック時代には二重協奏曲という曲は結構ありましたが,ロマン派以降では,「ドッペル・コンチェルト」といえばブラームスのこの曲を指すようです(ブラームス自身はDoppelkonzertとは一言もかいていないのですが...)。そのことが示すとおり,この分野を代表する名曲となっています。

ブラームスは,弦楽器のためにはヴァイオリン協奏曲を1曲を書いています。この協奏曲は大変な名曲ですが,チェロ協奏曲の方は1曲も書いていません。この曲は,そのレパートリーの穴を埋める曲といえます。ブラームスの協奏曲全般に言えることなのですが,彼の協奏曲の管弦楽部分はどの曲も大変充実しています。この曲も元々は交響曲第5番になるはずだったといわれています。作品102という番号が示すとおり,ブラームスの管弦楽作品の最後を締める,充実した曲となっています。

交響曲になるはずのものが二重協奏曲に変更になった理由は,友人でヴァイオリニストのヨアヒムとの不和をこの曲を作ることによって解消しようとしたためといわれています。そういうことを考えながら聞いてみると,2つの独奏楽器がユニゾンで仲良く寄り添っている部分がとても印象に残ります。クララ・シューマンの言葉どおり「和解の協奏曲」という風に聞こえてきます。

ヴァイオリン協奏曲の時もヨアヒムのアドバイスを受けているのですが,当然,この曲についてもヨアヒムのアドバイスを受けています。初演もヨアヒムが行っています(チェロの方はブラームスの友人のハウスマンという人が担当しています)。

第1楽章
オーケストラによる暗く力強い主題で曲は始まります。これは第1主題の断片です。その後,独奏チェロの渋いカデンツァが出てきます。管楽器が第2主題を暗示するフレーズを演奏した後,今度は独奏ヴァイオリンがカデンツァを演奏します。2つの独奏楽器が絡み合い,オクターブで同じメロディを演奏した後,オーケストラによって壮大に第1主題が演奏されます。このように第1主題の呈示の前に長いカデンツァが続くというのは,珍しい形式です。

第2主題は,第1ヴァイオリンと木管で軽快に出てきます。この主題は,ブラームスとヨアヒムが若い時に好んで演奏したヴィオッティの協奏曲からヒントを得たものといわれています(彼らの和解を暗示しているのでしょうか?)。

続いて,独奏楽器による呈示部が続きます。まず,独奏チェロが第1主題を演奏した後,独奏ヴァイオリンが加わって来ます。途中,スケルツォ風の奇妙なリズムの部分が入った後,第2主題がチェロからしみじみと歌われます。その後,ヴァイオリンと一体になって進みます。最初は優美に歌っているのですが,次第に熱を帯びてきます。激しくなってきたところでオーケストラに移っていきます。

展開部では,独奏の2つの楽器が自由奔放に技巧を駆使して活躍します。第1主題を中心に展開が行われ,第2主題はほとんど出てきません。カノン風の部分でクライマックスとなります。独奏ヴァイオリンがおおらかに音階を上っていくように進行した後,第1主題が壮大に再現されます。第2主題は明るいイ長調で出てきます。再度短調に戻り,最後は,第1主題を展開風に扱ったコーダで堂々と結ばれます。

第2主題
ホルンの伸びやかな音で始まり,管楽器が弱音で受けます。続いて,独奏ヴァイオリンとチェロが非常にシンプルな主題をオクターブのユニゾンで演奏します。この辺りには,室内楽的な寂しさが漂います。中間部は,管楽器でのどかに始まります。独奏ヴァイオリンが優美な旋律を演奏し,独奏チェロがこれを受けます。中間部が静かに終わると,最初の部分が再現されます。最後に独奏楽器が声を揃えて下降していって,静かに楽章が結ばれます。

第3楽章
ロンド・ソナタ形式です。独奏チェロの演奏する,暗いけれども軽い動きのあるロンド主題で始まります。これを独奏ヴァイオリンが繰り返した後,全管弦楽が演奏します。木管楽器の軽やかな部分の後,両独奏楽器が短いカデンツァを演奏します。続いて独奏チェロが重音で上向していくような第1副主題を演奏します。独奏ヴァイオリンがこれを受けます。フラジオレットの出てくる技巧的な部分の後,ロンド主題がチェロで再現されます。今度は少し変形されています。

その後,ちょっと休止が入ります。突如,行進曲風の第2副主題が出てきます。この部分は展開部に当たります。この旋律がオーケストラで演奏された後,クラリネットとファゴットによるのどかな部分になります。この後,経過的な部分が続きます。ffで第2副主題の断片が出てきた後,独奏チェロによってロンド主題が出てきます。ここからが再現部ということになります。第1副主題が出てきた後,テンポを少し落とします。コーダでは,独奏楽器が音を合わせて進んでいきます。ティンパニだけのトレモロが入った後,力強く全曲が結ばれます。(2003/01/05)