ブラームス Brahms

■ハイドンの主題による変奏曲,op.56a
ウェーバー,レーガー,ヒンデミットなどいろいろな作曲家が,オーケストラのための変奏曲を作っていますが(結構,渋い曲が多い?),その中でも特によく知られ,演奏される機会の多いのがこの作品です。緊張と弛緩のバランスが良く,ブラームスの作曲技法の精髄を味わうことのできる名曲です。

親しみやすい主題に続いて,8つの変奏と終曲が演奏されます。全体で20分ほどの手頃な曲ですので,ブラームスの交響曲と組み合わせてのCD録音も非常に沢山あります。

8つの変奏は次のような構成になっています。
  • 1〜2変奏:第1楽章的
  • 3〜4変奏:緩徐楽章的
  • 5〜6変奏:スケルツォ的
  • 7変奏:緩徐楽章的
  • 8変奏:間奏的
この後に大規模な終曲が続きますので,曲全体としては,交響曲的な雰囲気も持っています。調性はすべて変ロ長調または変ロ短調で全体的な統一感も感じられます。

この曲の作品番号は「56a」となっているとおり,「56b」という作品もあります。bの方は,この曲を2台のピアノで演奏するものです。aとbのどちらが先に書かれたのかはわかっていませんが,2台のピアノ版の方が後に書かれた可能性は考えにくいようです。

主題 まずアンダンテのテンポで親しみやすい主題が演奏されます。このテーマは,ハイドンの「フェルトパルティーエン(野外のための組曲)」の第6曲の中の第2楽章から取られています。が,実はこの曲が本当にハイドンの作なのかは怪しいところがあります。低弦がピツィカートでリズムを演奏する上にオーボエを中心とした木管楽器群がふくらみのある響きで讃美歌風のメロディを演奏します。付点リズムがあるので,行進曲風のところもあります。このメロディは一度聞けば,すぐに覚えられるようなものです。その後の第2部では,ちょっと性格の違うメロディが出てきます。ここでは,変ロの持続音が印象的です。再度,最初の部分が戻ってきて,主題の呈示部は終わります。この第1部,第2部という2つの主題は以下の変奏でも同様です。

第1変奏 主題第2部に出てきた変ロ音の連続で始まります。この反復はこの変奏中に何度も出てきます。曲は次第に対位法的になり,立体感を増して行きます。

第2変奏 この変奏は,暗い情熱を秘めたように,短調で演奏されます。主題の付点リズムを利用して強弱の変化をつけています。また,ここでも変ロ音の反復が出てきます。

第3変奏 この変奏と次の変奏は,緩徐楽章風になります。明るくのどかでロマン的な美しさを持ち,対位法的に展開しています。この変奏から第5変奏までは,テンポが遅いせいか,第1部と第2部の繰り返しは行われません。

第4変奏 オーボエとホルンに新しいなだらかなメロディが短調で出てきます。弦楽器は細かい動きで対位法的に加わってきます。

第5変奏 次の変奏と合わせてスケルツォ風の性格を持っています。スタッカートと強弱の付け方が印象的です。

第6変奏 ホルンとファゴットが生き生きとして軽快な変奏を演奏して始まります。弦はピツィカートで伴奏します。

第7変奏 再び緩徐楽章風になります。シチリア舞曲風ののどかな変奏です。

第8変奏 暗く情熱的な短調の楽章です。次の終曲への橋渡し的な変奏となっています。弦楽器は活発に動き,管はそれと交替しながら進みます。全体に神秘的なムードがあります。この変奏の第2部でも変ロの持続音が聞かれます。

終曲 全曲の結びとなるスケールの大きな楽章です。パッサカリアという変奏曲形式で出来ている変奏曲です。主題は変奏曲全体の主題から導かれた5小節ほどの荘重なものです。この主題が18回繰り返され,その上に新しい音楽が対位法的に絡んできます。最後は,テンポを落とし,一旦静まった後,もとのテンポに戻り,トライアングルなども加わって輝かしく全曲を締めくくります。(2003/10/02)