ブラームス Brahms

■ピアノ四重奏曲第1番ト短調op.25

ブラームスが作曲した3曲のピアノ四重奏曲はいずれも恩人シューマンがライン川に投身自殺を図った1854年に書き始められました。そのうち第1番と第2番は1861年に完成しています。そういう事情もあるのか,この時期の音楽には悲劇的な表情を持ったものが多いようです。この曲もその一つです。それを払いのけようとする勇壮な楽想との対比が聞き所です。

曲はピアノをかなり複雑に扱いながらも,弦楽器の均衡を破るところはなく,充実感と堅実さを兼ね備えたまとまりの良い作品となっています。第2楽章が「間奏曲」,第4楽章が「ジプシー風ロンド」と少々風変わりな構成になっていますが,それがまた,この曲の魅力となっています。現在では,ブラームスの3曲のピアノ四重奏曲の中ではいちばんよく演奏される曲となっています。

この曲には,ブラームス自身がピアノ連弾用に編曲したものがあります。また,シェーンベルクがオーケストラ用に編曲したものも近年,比較的良く演奏されます。

第1楽章
ピアノが淋しげな第1主題を演奏し,チェロ,ヴィオラ,ヴァイオリンの順に加わっていきます。不安気な気分を保っているうちに,チェロにシンコペーションのリズムを持つ第1主題第2句が出てきます。第1主題がフォルテで再現され,経過的な転調を続けた後,チェロに第2主題が出ます。こちらも短調ですが,より豊かで幅広い情緒に溢れています。しばらくするとこの主題を変奏するようにヴァイオリンとヴィオラのユニゾンで大らかなメロディが演奏されます。輝かしい新しいメロディを加えた展開部風の立派なコーダがあって,呈示部は終わります。

展開部は再現部が始まったような感じで第1主題が出てきて始まります。第2句の方は調性が変えられています。不吉な感じの動機が出てきて,暗い情熱を示すように展開します。この辺では弦のトレモロが印象的に使われています。それを静めるうように静かに第1主題が演奏されます。その後クレッシェンドして第1主題がフォルテシモで演奏され,クライマックスを築きます。カノン風の部分のあと,再度静まり,弦のピツィカートが静かに2回入った後,調性が明るくなり再現部に入って行きます。

再現部は,第1主題第2句から始まります。しばらくして第1句の方も再現されます。その後は,一部変更されながらも呈示部どおり進みます。コーダでは対位法的な動きで第1主題第1句を扱い,情熱的に盛り上がりますが,再び静まり,消えるように楽章を閉じます。

第2楽章
間奏曲と名づけられた3部形式による幻想的な楽章です。暗い情感の立ち込める主部に対して、活発な動きのトリオ(アニマート)が対照されています。

不安げなリズムを刻むチェロの持続音の上に弱音器付きの他の弦楽器が憂いのこもった第1主題を演奏します。その後,明るいハ長調の部分になりますが,すぐに短調に戻り,不安げな持続音が続きます。この持続音が消えると,ヴァイオリンに第2主題が出てきます。これがピアノで繰り返されます。再び,持続音が始まり第1主題が戻ってきます。それに続く第2主題はヴァイオリンとヴィオラのユニゾンで印象的に演奏されます。

中間部はアニマートになり,ピアノの速い動きにのって,弦楽器に軽快なメロディが出てきます。転調をしながら経過風に進み,頂点を築いた後,静かになり第3部になります。第3部は第1部とほぼ同じです。コーダは明るいハ長調になり,静かに結ばれます。

第3楽章
前の楽章の最後の明るさを受けて,全体的におおらかな気分に包まれた緩徐楽章です。アニマートの中間部では劇的な高揚を作り出しています。

まず,ヴァイオリンとヴィオラによって感謝の賛歌のような楽しげで感動に満ちた主題が演奏されます。このメロディは第1楽章の第1主題とも関係しています。ピアノがハープ風の伴奏をする部分が出てきた後,ピアノに堂々としたリズムが出てきて,行進曲のような感じになります。

その後,テンポがアニマートに変わり,軽快なリズムの上に弦楽器がキレ良く上下に動くようなメロディが出てきます。この部分がしばらく続き,ヴァイオリンに出てくる新しい主題を交えながら,楽章のクライマックスを作ります。

第3部は最初の部分の再現です。途中ピアノの独奏が入った後,最後は気分を盛り上げながらも,穏やかに楽章を閉じます。

第4楽章
ジプシー風ロンドと名づけられたプレスト楽章です。親しみやすい主題が情熱的に展開するこの楽章は,初演時から大変人気がありました。シンバルの響きを真似たようなアクセントが付けられ,哀愁を帯びたこのジプシー風の主題は,ロンド主題として何回も繰り返し登場します。ロンド主題の後に音階風に上昇していく短調のメロディは興奮をさらに高めます。

この主題部の後,休符が入り,その後,流れるような軽快なメロディを持った第1副主題がピアノを中心に出てきます。再度,ロンド主題が出てきた後,テンポを少し落とし,第2副主題が登場します。こちらは力強く情熱的なもので,ジプシーの踊りを彷彿とさせます。その後哀愁のこもった静かな部分がしばらく続きます。

再度,速度がプレストに戻り第1副主題が演奏されます。続いて第1,第2の副主題による対位法的な展開が見られます。ピアノ・ソロによって派手なカデンツァが演奏された後,弦楽器だけによる静かな雰囲気になります。その後,これまでの素材を使った速い音の動きが続きます。ロンド主題がフォルテシモでさらにテンポアップされて再現された後,最後は熱狂的な雰囲気になり,力強く結ばれます。(2004/09/26)