ブラームス Brahms

■ピアノ五重奏曲ヘ短調op.34

弦楽四重奏にピアノを加えた「ピアノ五重奏曲」という形式の曲をブラームスは1曲だけ作曲しています。ブラームスはこの曲を書くのに約2年もの年月を掛けていますが,その甲斐があって,この作品はこのジャンルを代表する名作となっています。

この曲は当初,弦楽五重奏として書かれる予定でしたが,ブラームスは,その後,2台のピアノのためのソナタに書き直します。しかし,クララ・シューマンのアドバイスに従って,2台のピアノのためのソナタとすることを止め,最終的にはピアノ五重奏に改作しています。この辺の経緯にはいかにもブラームスらしい,慎重さが感じられます。

いずれにしても,重厚さ,緻密さに溢れた,”いかにもブラームス”という感じの名作です。若々しい情熱があふれているのも魅力です。

第1楽章
暗い情熱と力強い威厳を持った楽章です。曲は第1ヴァイオリンとピアノのユニゾンによる落ち着いた感じの第1主題で始まります。一息ついた後,ピアノが活発な音型を演奏します。その後,全楽器で力強く第1主題が演奏されます。続く経過部では,穏やかな表情を持った新しい旋律が出てきます。

第2主題は暗さと軽妙さを兼ね備えた,かなり長いものです。その後,次第に長調に変わり,明るさがほのかに見えてくる中で,静かな小結尾になります。

展開部は第1主題の拡大形から始まります。全体に落ち着いた静かな雰囲気の漂う部分です。再現部に入ろうかどうしようか不安気に迷っているうちに,クレッシェンドし,第1主題の途中に出てくる活発な音型が出てきます。ここから再現部が始まります。

その後は,ほぼ公式どおり再現されます。次第に弱音になり,テンポもゆっくりしていく中で,コーダに入っていきます。ピアノが持続音を演奏する上に弦の四重奏が対位法的に進んでいきます。チェロが疲れたように第1主題を出したあと,力を振り絞るようにクレッシェンドし,暗い情熱の中で楽章は結ばれます。

第2楽章
3部形式で書かれています。全体に柔和で叙情的なムードがあります。ピアノがぎこちなく歩みを進めるような第1主題がまず出てきます。長調だけれどもほのかに暗い雰囲気があります。第2部は少し明るさを増します。途中,一度スピードを速め,切迫感を出します。第3部は第1部の再現です。コーダでは,第2部の主題に基づいた新しいメロディも加わり,渋い雰囲気で終わります。

第3楽章
大変生き生きとしたスケルツォです。チェロのピツィカートの持続音の上にシンコペーションのリズムを持った第1主題がちょっと不気味に出てきます。続いて,弦楽器だけで,リズミカルな第2主題が演奏されます。その後,エネルギーを開放するかのように充実した響きを持った第3主題が「バーン」と全員で演奏されます。

各主題が再度出てきた後,ヴィオラに第2主題が出て来て,フガートが始まります。ピアノは対位旋律を演奏します。これがクレッシェンドしてクライマックスを築きます。

第2部はトリオにあたります。第1部よりはかなり短い,叙情性のある部分です。この部分では,チェロのリズミックな持続音の上にピアノで出てくる主題と穏やかな対位旋律のついたスタッカートで演奏される主題の2つが出てきます。その後,第1部が戻って来ます。

第4楽章
序奏を持つソナタ形式です。ブラームスが室内楽で序奏を置いているのは珍しいケースです。この序奏は暗く神秘的なものです。いろいろな楽器で新しい旋律が出てきた後,クライマックスを築きます。その後,穏やかな気分になった後,休止が入り,序奏は終わります,

主部はピアノの伴奏の上にチェロがリズミカルかつ静かに第1主題を演奏します。経過句の後,第2主題が表情豊かに演奏されます。その後に3連符を主体とした第2句,ハンガリー風の第3句と続きます。

その後,展開風の部分を含みながら,各主題が再現されます。コーダは,急速な無窮動風の音の動きで始まります。途中,対位法的な進行を見せながら,シンコペーションのリズムで進行し,和音的な進行で,駆り立てるように曲は結ばれます。(2003/03/03)