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ブラームス Brahms
ピアノ・ソナタ第2番嬰へ短調op.2

このソナタには第2番という番号が付いていますが,実際には1852年に第1番よりも先に作られています。そのため,第1番よりも先輩作曲家の影響を強く受けた作品となっています。ベートーヴェンの後期ソナタに見られる非ピアノ的音楽手法とロマン的な叙情性とが混ざりあい,一見難渋なところがありますが,20歳に満たないブラームス青年期の作品としての魅力も持っています。

先輩作曲家の影響と同時に,ブラームスの研究者たちは,この作品の中にその後のブラームスがたどった軌跡を読み取ることができるとしています。例えば,第3楽章スケルツォ中間部の夢見るような音の響き,第2楽章の民謡を使った素朴な優しさ,随所に出てくるラプソディックな音形などは,円熟期の作品のように整理されていないため,より生の姿で聞くことができます。

曲は,クララ・シューマンに献呈されており,初演は,作曲後30年以上経った1882年2月,ウィーンでハンス・フォン・ビューローによって行われたとされています。

第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ・マ・エネルジコ 嬰へ短調 3/4
曲はベートーヴェン風の激烈さをもった第1主題で始まります。甲高い音で始まった後,しだいに緊張が緩んで行き,深く沈み込んで行くような気分になります。経過部で低音部に新しいリズムの進行形が出てきた後,音楽は高揚し第2主題が出てきます。第2主題は,嬰ハ短調で始まりますが,すぐにホ長調による旋律的な第2句が続きます。小結尾は,第1主題に基づくものです。この呈示部の後に反復記号はついていません。

展開部は,第1主題と第2主題を交互に扱い,最後,大きくクレッシェンドして,第1主題の再現につながります。ここでの第1主題は呈示部の場合とは違い,かなり高揚したものになっています。経過部は省略され,すぐに第2主題の再現になります。

コーダは第2主題を使ったもので,全曲の頂点となるような高揚感のある部分になります。その後にさらにスピードを上げますが,最後の部分では落ち着きを取り戻し,静かに楽章が結ばれます。

第2楽章 アンダンテ・コン・エスプレッシオーネ ロ短調 2/4 自由な変奏曲
深く沈みこむような堂々とした幻想味を持つ,落ち着いた主題で始まります。この意味深長な主題は,古い民謡風でミンネ(中世ヨーロッパの騎士道精神に基づく恋愛)歌人の詩に霊感を得て作られたものと言われています。この主題は,独唱と合唱が交互に繰り返されるように出てくるのが特徴です。ゆったりとしたペースで堂々と進んだ後,3つの変奏が続きます。第2変奏で即興的な要素が強まった後,第3変奏では主題が強く打ち出されます。最後は穏やかな雰囲気になり,そのまま次の楽章へとつながっていきます。

第3楽章 スケルツォ アレグロ ロ短調 6/8 3部形式
この楽章はスケルツォとなっていますが,主題は第2楽章の主題と共通していますので,第2楽章の変奏の結尾としての役割も果たしています。ただし,生き生きとしたスケルツォの部分は短く,すぐにトリオに入ります。

この部分は流麗なもので,美しい情感と歌に溢れています。スケルツォ部分に比べてかなり長いのも特徴です。その後,スケルツォに戻った後,最後はトリオの主題で締められます。

第4楽章 ソステヌート−アレグロ・ノン・トロッポ・エ・ルバート 嬰へ短調 4/4 序奏をもつソナタ形式
序奏部の主題は,第1楽章の第1主題に基づくもので,深く沈みこむような,重々しく堂々とした気分を持っています。この主題は,続く主要部の第1主題とも共通しています。第1主題によるカノンによる経過部に続いて,少し可愛らしさのあるイ長調の第2主題になります。その後,和音が続く小結尾で呈示部は締められます。

展開部は,小結尾,第1主題,第2主題,第1主題の順で処理されます。楽章全体として第1楽章と共通する部分はありますが,ここでは,より情熱的な気分を持っています。再現部は,呈示部を圧縮したもので,経過部は省略されています。この作り方は第1楽章と共通します。

呈示部に出てきたカノンによる経過部は,ここでは小結尾で登場し,その後,縮小された形で3連音符による第1主題が出てきます。対位法的な部分に続いて,最後,序奏部が,嬰へ長調の安らかな雰囲気で再現され,静かに締められます。

(参考文献)作曲家別名曲解説ライブラリーブラームス.音楽之友社,1993

 (2012/11/17)