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ブラームス Brahms
ピアノ協奏曲第1番ニ短調op.15

ピアノ協奏曲にもいろいろなタイプの曲がありますが,その中でも,恐らくもっとも交響曲的な雰囲気を持った作品がこの曲です。ピアノのソロは技巧的に難しく書かれていますが,それほど前面に出ることはなく,全体の一部になっています。ピアノの見せ場が比較的少ない重厚で渋い作品ということで,実演で取り上げられる機会は,第2番ほど多くはないのですが,ブラームスの初期の作品を代表する,聞き応えのある作品となっています。「独奏ピアノを伴った交響曲」と揶揄されることもある作品ですが,この特徴は,ブラームスの他の協奏曲にも共通する魅力でもあります。いずれにしても,非常にブラームスらしい作品と言えます。

全曲を通して,華麗さを廃した協奏曲ということで,ロマン派時代に数多く作られた名人芸を見せびらかすような協奏曲に対するアンチテーゼになっているのも特徴です。曲は1858年にデトモルトで作曲されました。当時25歳だったブラームスがシューマンの死をきっかけに作った曲と言われています。暗さの中に所々に出てくる憧れに満ちた響きも魅力的です。

第1楽章 マエストーソ,ニ短調,6/4,協奏曲風ソナタ形式
マエストーソの指定どおり,大変威厳のある第1主題で曲は始まります。この主題は,ホルン,ヴィオラ,コントラバスの持続音とティンパニのトレモロの上に,ヴァイオリンとチェロがくねくねと上下するようなもので,大変印象的です。トリルを含む音の動きはどこか悪魔的な迫力も感じさせます。これが発展的に扱われた後,第1ヴァイオリンが詩情豊かな経過的なメロディを演奏します。これは第2楽章の冒頭でも転用されて出てきます。この時のチェロによる伴奏の動きは第1主題の変形です。管弦楽のみによる呈示部は,第2主題が現れないまま静かに終わります。

新しい動機を加えた第1主題が力強く出てきた後,満を持したように独奏ピアノが入ってきます。強烈なトリルなどを力強く演奏し,経過的なメロディを扱って行きますが,そのうちに管弦楽がパタリと止み,ピアノ独奏でコラールのようにしんみりと響く第2主題が演奏されます。楽章全体は,激しい第1主題が丹念に繰り返され,緊張感に満ちていますので,この部分はオアシスのように聞こえます。この第2主題は,徐々に上に向かって広がっていくような気分を持っていますので,若いブラームスの将来への憧れ表現しているようです。この第2主題が繰り返された後,ピアニスティックな動きのある部分になります。ホルンによる信号が数回出て,小結尾となります。

展開部は,ピアノによる力強い音階風のパッセージで始まります。その後,管弦楽による第1主題が絡み,大きく盛り上がります。ピアノと管弦楽が対立するように緊張感のある展開が続きます。経過風のメロディが静かに入った後,次第に大きな盛り上がり,ピアノが第1主題を出して,再現部になります。ただし,ここではニ短調ではありません。ピアノと管弦楽がカノン風に絡んだ後,呈示部と同様に進んでいきますが,ここではよりダイナミックさが加わっています。第2主題がニ長調で再現した後,第1主題を扱ったコーダとなり,駆り立てるような気分の中で力強く結ばれます。

第2楽章 アダージョ,ニ長調,6/4,3部形式
この楽章の草稿には,「主の御名の下に来たれるものに祝福あれ」と記されていますが,そのとおり,宗教的な感情をたたえた作品となっています(ただし,この言葉はその後外されています)。この雰囲気は,シューマンの死の悲しみとクララへの想いの情の現れと言われています。

最初にヴァイオリンとファゴットが対位法的に絡んでゆったりと出てくる主題は,静かな宗教的気品をたたえたものです。前述のとおり,この主題は,第1楽章で出てきたものの変形です。ファゴットの主題は,この楽章で重要な役割を果たし,次に出てくる独奏ピアノもこのメロディを演奏します。最後にピアノだけが残り短調の部分になります。

中間部は短調になります。この部分は木管楽器を中心としたもので,それほど長くありません。その後,第1部の再現となります。ピアノのカデンツァの後,もう一度主題が姿を見せ,静かに楽章を閉じます。

第3楽章 ロンド アレグロ・ノン・トロッポ,ニ短調,2/4
ピアノによって演奏されるリズミカルなロンド主題が中心となって進む,生き生きとした力強さを持った楽章です。主要主題は,短調で演奏されますが,活気に満ちたもので,第1楽章の第2主題同様,上行していくものです。

第1副主題は,ピアノ独奏で始まった後,チェロが絡むもので,ヘ長調で表情たっぷりに演奏されます。この主題もまた,上向して行きます。主要主題が再現された後,第2副主題となります。これは,表情たっぷりだけれども爽やかな気分を持った弦の響きが印象的です。これが短調に変わり,フガートとなり緊張感を高めた後,主要主題,第1副主題の順に再現します。「幻想曲風に」と記されたカデンツァの後,コーダとなり,木管楽器を主体に第2副主題を扱います。一旦テンポを落とし,落ち着いた雰囲気になりますが,すぐにテンポを上げ,カノン風に緊張を高め,その頂点で新しいカデンツァとなります。最後は,力強く締めくくられます。

(参考)作曲家別名曲解説ライブラリー7 ブラームス.音楽之友社,1993
(2007/07/06)