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ブラームス Brahms
ピアノ協奏曲第2番変ロ長調op.83

現在,CDや演奏会などで一般によく聞かれるピアノ協奏曲の中でもっとも長い作品がこの曲でしょう。全体で50分ぐらい掛かります。ブラームスの第1番のピアノ協奏曲もこの曲に迫る規模を持っていますが,第2番の方は4楽章構成になっていることもあり,さらにスケール感豊かな交響曲的雰囲気を持った協奏曲となっています。

曲の全体的な気分についても,思いつめた暗さの充満した第1番よりもこの曲の方が開放的な大らかさを持っていますので,ブラームスの全作品の中でも特に人気のある作品の一つとなっています。この伸びやかな気分は,1881年に行われたイタリア旅行の印象が影響していると言われています。ブラームス的な重厚さや渋さを残しつつも,豊かな歌も持った作品ということでピアノ曲史上に残る傑作と言えます。第3楽章でのチェロ,第1楽章でのホルンをはじめとして,オーケストラの楽器の方もソリスティックな扱いがされているのも特徴です。

独奏ピアノのパートは,非常に技巧的に書かれているのですが,いかにもブラームスらしく,ピアノだけが目立ち過ぎることはなく,オーケストラと対等に扱われています。それに加え,全曲約50分を弾きとおす体力が求められます。というわけで,ピアニストにとっては,非常な難曲であるとともに,もっとも弾き応えのある曲ということも言えそうです。いずれにしても,他に類のないピアノ協奏曲であることは確かです。

第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ,変ロ長調,4/4,協奏曲風ソナタ形式
この楽章の開始は,ブラームス好きはもちろん,ロマン派音楽の好きな人ならば誰でもシビれるのではないでしょうか。ホルンがソロでゆったりと盛り上がるようなメロディを演奏した後,ピアノが地の底から湧き上がるように登場し,その後,高音で合いの手を入れます。再度,ホルンのソロとなりますが,今度は上から下に下がっていくようなメロディとなり,また,ピアノが合いの手を入れます。優雅さとロマンに満ちた部分です。恐らく,この印象的な部分を聞けば誰もが,ブラームス好きになることでしょう。

このホルンの演奏する第1主題を木管楽器が引き継ぎますが,その後,ピアノのカデンツァ風に身振りの大きなメロディを演奏します。この雰囲気は,ベートーヴェンの「皇帝」を思わせるようなところがあります。その後,オーケストラのみによる呈示部が続きます。次第に緊張感がほぐれていった後,ヴァイオリンによって第2主題が演奏されます。こちらはニ短調で表情たっぷりに演奏されるものです。

歯切れの良いリズムを持った小結尾の部分の後,ホルンが今度は興奮したように力強い音型を加え,独奏呈示部になります。これを受ける独奏ピアノも大変堂々としたものです。新しい素材を加えて,オーケストラとピアノが対等に渡り合うような感じで曲は進みます。第2主題に続いて,小結尾になりますが,ここではさらに情熱を帯びたものとなっており,大変聞き応えがあります。

展開部は,この小結尾を受け,オーケストラが強烈に第1主題を演奏して始まります。最初は静かに始まるピアノの方も次第に熱を帯びてきて,技巧的かつダイナミックに動き回ります。強烈なクライマックスの後,徐々に緊張が緩み,第1主題がホルンに出てきて,再現部になります。ここでは,小結尾でのエネルギッシュなフレーズも登場します。最後は,第1主題を扱ったコーダとなり,力強く結ばれます。

第2楽章 アレグロ・アパッショナート,ニ短調,3/4,3部形式
スケルツォとは書かれていませんが,明らかにスケルツォ楽章です。ピアノ協奏曲でスケルツォがある曲は大変珍しいのですが,この辺がこの曲らしさ,ブラームスらしさです。

楽章は非常にエネルギッシュで情熱的なピアノ独奏で始まります。この主題は,ブラームスのセレナード第1番の第2楽章のスケルツォ主題と似たものです。しばらくして弦楽器による優美なイ短調のメロディが弱音で出てきますが,この対照的な2つのメロディが対比されながら楽章は進んでいきます。

オーケストラによって大きなクライマックスが築かれ,ちょっと決然とした厳粛な雰囲気になった後,スタッカートの新しい主題がニ長調で演奏されて,中間部が始まります。この部分のピアノの動きは,さり気ないけれどもとても難しい箇所です。ここではホルンの活躍が目立ちます。その後,最初の部分が繰り返される第3部となります。最後は暗い情熱を秘めたまま力強く締められます。

第3楽章 アンダンテ,変ロ長調,6/4,3部形式
この楽章は,ピアノ協奏曲でありながら,チェロが独奏楽器のように活躍するのが特徴的です。その点では,ヴァイオリン協奏曲の第2楽章でオーボエが活躍するのと似た性格がありますが,この楽章でのチェロは,さらに大きな存在感があります。いかにもロマン派的な情感と重厚さが主体なのですが,このチェロのメロディには,どこか明るさを感じさせるところがあります。この絶妙のブレンドがこの楽章の大きな魅力となっています。

楽章はこのチェロ独奏で始まりますが,ヴィオラ以下の低弦との対位法を伴って綿々と歌われていきます。このメロディは,後にop.105-2の「わがまどろみはいよいよ浅く」という歌曲に引用されています。3分間近くこのチェロを中心とした歌が続いた後,おもむろにピアノが新しい音型で入ってきます。そして,しばらくピアノのモノローグが続きます。続いて,これまでのメロディを展開風に扱っていく暗く激しい部分になります。冒頭のチェロの主題を変形したようなメロディが出てきたりして,続く中間部へのブリッジとなります。

中間部は,ピウ・アダージョとなり,クラリネットとピアノが神秘的なムードの中で対話を始めます。続いて,弦楽器がクラリネットの後を受けます。このメロディは,歌曲「死への憧れ」から引用されたものです。速度が戻った後,冒頭のチェロ独奏が復活し,第1部の再現の第3部となります。ここでは,ピアノがチェロのメロディを繊細に飾るように進んでいきます。この楽章は,このように二重協奏曲的な性格を強く持っているのが特徴です。この第3部では,第1部の後半がかなり省略され,静かな余韻を称えながら静かに終わります。

第4楽章 アレグレット・グラツィオーソ,変ロ長調,2/4,展開部のないソナタ形式
独奏ピアノによるとても軽快な感じの第1主題で楽章は始まります。このメロディは,第1楽章の小結尾のメロディと関連があると言われています。また,ブラームスが好んだハンガリー風の気分も持っています。第1楽章から第3楽章までは,どこか含みのあるメロディが続いていましたので,ここに来て,気分が(イタリア的に?)一新するようなところがあります。

この主題は次第に厚みを持って行きます。その後,木管楽器を中心とした第2主題第1句が出てきます。付点音符を持つちょっと揺らぎのあるメロディは,さらに気分を変えるような性格を持っています。その後,ピアノがとても軽快で明るい気分を持った第2主題第2句をヘ長調で出します。

第2主題第1句が少し顔を出した後,展開部を欠いた形で,オーボエに第1主題が出てきます。これ以降が再現部ということになります。この第1主題は呈示部の時とは異なり,カデンツァ風のメロディが入ったり,第2主題第2句の動機が入ったり展開部を兼ねたような形になっているのが特徴です。弦楽器と管楽器の応答風に第2主題第1句が出てきた後,最後にウン・ポーコ・ピウ・プレストとなり,第1主題に基づいたコーダで,華やかに全曲が閉じられます。

なお,この楽章の形式についてですが,中心主題が軽快で,いくつかのメロディが繰り返し出てきますので,ロンド形式と見ることもできるようです。

(参考)作曲家別名曲解説ライブラリー7 ブラームス.音楽之友社,1993
(2007/11/30)