ブラームス Brahms

■交響曲第2番ニ長調op.73
Symphony No.2 in D major, op.73

ブラームスは第1交響曲を書くまでに21年もの歳月をかけましたが,第2交響曲は第1番の完成の翌年に一気に書いています。これはブラームスにしては大変珍しいことです。南オーストリアのウェルター湖畔の避暑地ペルチャッハで着手され,バーデンバーデンで完成されたこの曲はその風光を反映していると言われています。第1交響曲の「苦悩から勝利へ」といった重厚で劇的な雰囲気と対照的に明るく爽やかな気分に溢れているこの曲は「ブラームスの田園交響曲」などと呼ばれることもあります。ブラームスの第1,第2交響曲についても,ベートーヴェンの「運命」と「田園」のような関係にあると言えそうです。

ただし,そこはブラームスということで,隙のない堂々とした雰囲気も持っています。余裕と自信,一気呵成の流れの良さを持った名曲です。

この曲の楽器編成は,彼の他の交響曲と違い,コントラファゴットが使われず,チューバが加えられています。この効果は特に第4楽章で発揮されています。

第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ ニ長調 3/4拍子
冒頭低弦に「レ−ド#−レ」という動機が出てきます。この動機は第1楽章だけではなく,全曲を統一する基本動機として使われています。この上にホルンと木管楽器がたっぷりとした第1主題を演奏します。高原の空気が流れ込んでくるような爽やかさを感じさせる印象的な主題です。しばらくしてヴァイオリンの高音に出て来るほのぼのとした優しさを持つ経過部のメロディも大変美しいものです。第1主題のモチーフを中心に盛り上がった後,静かになり,続いてチェロを中心に第2主題が出てきます。この主題もまた流れるような美しさを持っています。詞をつけて歌いたくなってしまうほど歌謡的なものです。これが繰り返された後,決然とした雰囲気になり,展開部を思わせるように力強く盛り上がっていきます。木管楽器が第2主題を演奏しながら静かに呈示部は終わります。

展開部は,ホルンによる第1主題から始まります。これをオーボエ,フルートが受け,やがて立体的な対位法が繰り広げられます。第2主題の変形も加えてクライマックスを築いていきます。トロンボーンの演奏する基本動機も効果的に使われています。オーボエが静かに第1主題を出すと気分は落ち着き,再現部に移ります。

このオーボエが第1主題を演奏した後,それにヴィオラによる経過部の旋律が対位法的に絡みます。ティンパニのドロドロという音が出てきた後,第2主題が再現されます。歯切れの良いフレーズの後,コーダになります。ここでは次第に速度が落とされ,幻想的になって行きます。テンポは一度もとに戻りますが,再度名残惜しげな雰囲気になります。ホルンの演奏する第1主題の断片のメロディとともに一瞬消え入るようになった後,暖かい和音で結ばれます。全体は穏やかだけれども,一抹の寂しさも感じさせてくれるような魅力的な楽章です。

第2楽章 アダージョ・ノン・トロッポ ロ長調 
チェロによって,長調なのにものさびしい雰囲気のある第1主題が演奏されます。この主題は,ブラームス自身「自分の生涯でいちばん美しい旋律」と語ったと言われるものです。この主題が他楽器で繰り返される間,息の長いメロディが続きます。第2主題は木管楽器にシンコペーションを伴って出てきます。この主題は対位法を伴って進み,小結尾になります。

経過部風の展開部の後の再現部になりますが,ここでは第2主題の再現は省略されていますので,かなり変則的な形式といえます。楽章の最後で,弦の対位法的な柔らかい動きの中で,ティンパニがリズムを刻むのも印象的です。最後は静かに終わります。

第3楽章 アレグレット・グラツィオーソ−プレスト・ノン・アッサイ ト長調 三部形式を拡大したロンド形式で書かれています。メヌエットとスケルツォを変奏曲風に融合した楽章とも言えます。A-B-A-C-Aという形で作られていますが,各部の主題が変奏の技法を使って互いに関連付けられているのが特徴です。

まず,オーボエに一度聞いたら忘れられないようなロココ風の愛らしい主題(A)が出てきます。続いて出てくるBの部分は主題自体はAの変奏でスケルツォ風になりテンポが速くなります。再度,Aのロンド主題になりますが,この主題も前のときとは少し違っています。その終わり近くにはオスティナート風のバスの動きが出てきます。その後,第2副主題部(C)になります。このメロディはプレストの速い動きを持つもので,シンコペーションが特徴的です。最後にAが再現された後,静かに結ばれます。

第4楽章 アレグロ・コン・スピリート ソナタ形式
ブラームスの4つの交響曲の中でも最も率直で生気に富む楽章です。もごもごと細かい音が動くような第1主題が弱音で始まり,管楽器の加わった明るいメロディが続きます。その後,いきなり爆発するように盛り上がり,第1主題が展開していきます。この「爆発」は,この楽章中に何回か出てきます。

第2主題はヴァイオリンとヴィオラによる穏やかなもので第1主題と明確に対比しています。それでいてどちらも第1楽章冒頭の基本動機が使われているのが見事な点です。この主題も熱を帯びてきた後,小結尾のメロディが出てきて呈示部が終わります。

展開部ではまず,第1主題がそのままの出てきます。再現部が始まったように思わせますが(または,ロンド形式のようにも思わせますが),この主題はすぐに形を変え,転回され,短調になります。クライマックスを築いた後,静かなトランクィロになり,木管と弦楽器が基本動機に基づく3連符で応答します。弱音が続いた後,第1主題が出てきて,再現部につながります。

コーダは,両主題に関連した金管楽器のコラール風のフレーズで始まります。今までためていたエネルギーを爆発させるようなクライマックスになります。トロンボーンの高音をはじめ,金管楽器が華やかに活躍し,燃えるような感じで全曲が結ばれます。(2004/09/12)