ブラームス Brahms

■交響曲第4番ホ短調,op.98

ブラームスは4つの交響曲を書いています。そのどれもが名作です。この第4番は,結果的にブラームスの最後の交響曲となった曲ですが,全曲に渡って「晩秋」「夕陽」「諦観」といった枯れて悟ったような雰囲気があります。センチメンタルでロマンティックな香りが漂う一方,最終楽章がパッサカリアという古い時代の変奏曲の形を取っているのも独特です。第2楽章では教会旋法を使い,音色も地味目になっています。ブラームスの交響曲の中では唯一ティンパニ以外の打楽器(トライアングル)も登場します。

第1楽章
序奏無しで,ため息をつくような第1主題がヴァイオリンに出てきます。下向きと上向きの音型が交互に出てくる,シンプルだけども聞く人の心を捉える魅力的な旋律です。この主題は,緊張感を高めながら展開されて行きます。続いて木管楽器でタンゴのリズムのような第2主題がロ短調で出てきます。その後,このリズムの上に柔和なフレーズがチェロとホルンに出てきます。弦楽器のピツィカートに続いて,ヴァイオリンが高音から優しく下りて来るような滑らかなメロディを演奏します。この後も管楽器を中心になごやかな雰囲気が続き,ティンパニのトレモロの上に第2主題の前半の動機が出てきます。これが繰り返された後,歯切れの良い和音で呈示部は終わります。

展開部は第1主題を暗示するように始まった後,一瞬最初に戻ったような感じになります。しかし,その後,転調が始まります。次第に緊張した雰囲気になります。第2主題の動機などで盛りかがった後,第1主題の動機が暗示され,再現部に移っていきます。再現部は,呈示部と同じように進んでいきます。コーダは強烈で切迫した雰囲気となり,暗い情熱を持った響きの中で楽章が結ばれます。

第2楽章
展開部のないソナタ形式で書かれています。まず,ホルンと木管楽器で特徴的な主題が出てきます。この「ミーミーファソ,ミーミーレド」という音の動きはフリギア旋法という古い教会の音階に基づいています。その後,この主題は,他の楽器に引き継がれていきます。この主題が演奏されている間にいろいろな対旋律も出てきます。その中ではクラリネットの優しいメロディが印象的です。続いて,ヴァイオリンが第1主題の変形を情緒たっぷりと歌います。このメロディは3連符のスタカートの動きで中断されます。

続いて,チェロにまさに「エスプレッシーヴォ」という感じの表情豊かな第2主題が出てきます。この主題にいろいろな動機が絡み合う経過的な部分になった後,第1主題を暗示するような動きになり,再現部になります。コーダでは,第1主題が再度出てきて静かに消えるように終わります。

第3楽章
ソナタ形式ですが,スケルツォに相当する楽章です。ベートーヴェンのスケルツォは3拍子ですが,この楽章は2拍子です。熱狂的な激しさに徹することができず,自制心の残っている辺りはブラームス的なところです。まず,全楽器で強烈に下降してくる第1主題が演奏されます。この楽章で初めてトライアングルが出てきます。ピッコロも入っていますので,この曲の中ではいちばん華やかな響きのする楽章です。これがいろいろと変形され,新しい動機も加えて盛り上がっていきます。第2主題は穏やかでのびのびとした感じのものです。まずヴァイオリンに出てきます。

展開部は第1主題だけが使われます。激しく盛り上がった後,再現部になります。この部分では,まず,ファゴットとホルンが緊張を緩めるような穏やかなフレーズを演奏するのが大変印象的です。その後,元の速度に戻り,第1主題の後半に続きます。ティンパニがリズムを刻んでコーダに入り,そのまま力強く結ばれます。

第4楽章
パッサカリア(またはシャコンヌ)と呼ばれる変奏曲風の楽章です。主題となるメロディは,「ミー,ファー,ソー,ラー...」と上行していく単純なものですが,これをブラームスの作曲技法のすべてを尽くすかのように変奏していきます。変奏は,いろいろと気分を変えながら,30回ほどにもなります(全部フォローするのは大変?)。また,変奏曲とはいえ,全体はソナタ形式のようにまとめられています。第2変奏で出てくる下行する音形が第2主題のような役割を果たしています。

第12変奏から第23変奏までは展開部のような位置付けになり,第24変奏で最初の主題がはっきりと再現されます。第25変奏では第2主題に当たるメロディも再現されます。第30変奏の後は,コーダになります。主題を扱いながら,情熱的に結ばれます。(2003/03/05)