ブラームス Brahms

■ヴァイオリン協奏曲ニ長調,op.77

ブラームスのヴァイオリン協奏曲は,ベートーヴェン,メンデルスゾーンの曲と並んで3大ヴァイオリン協奏曲と呼ばれる名曲です。これらの作曲家同様,ブラームスも1曲しか書いていませんが,交響曲的な雰囲気のある大変聞き応えのある作品となっています。この曲は交響曲第2番(この曲も同じニ長調です)と同じ頃に夏の間,ペルチャッハという避暑地で書かれたものです。第1交響曲を書くまでは相当に苦労していたブラームスですが,この時期はかなりスラスラと筆が進んだようです。

この曲は,ロマン派時代のヴィルトーゾ風のヴァイオリン協奏曲とはかなり違った雰囲気を持っています。ヴァイオリンが出ずっぱりで華やかに活躍するのではなく,オーケストラと一体となって,シンフォニックな音楽を作り上げています。とはいえ,技巧的にも,そして体力的にもヴァイオリニストには相当大変な曲であることも事実です。厚いオーケストラの響きに対抗しながら,あちこちに出てくる重音を弾きこなして行く必要があります。40分もある曲なので,最後の方は体力のない奏者にはバテバテになるような曲です。

曲はブラームスの親友のヴァイオリニスト,ヨアヒムの協力を受けて完成しました。初演もヨアヒムの独奏で行われています。

第1楽章
空間的な広がりを感じさせる穏やかな第1主題で曲は始まります。続いて,オーボエに哀愁のあるメロディが出てきます。今までの静けさを破るかのように短調の旋律が全奏で出てきた後,再度優美で哀愁のある雰囲気に戻ります。しばらくすると弦楽器にマズルカに似たリズムを持つ情熱的なメロディが出てきて闘争的な雰囲気になります。

その後,やっと独奏ヴァイオリンが登場します。独奏ヴァイオリンは暗い情熱を湛えたような雰囲気でスルスルと入ってきます。最初は第1主題を中心に展開していきます。転調を繰り返し,高い音域でのトリルになり第1主題を甘く歌い始めます。その後,独奏ヴァイオリンが重音奏法のスカッカートで強いフレーズを演奏します。呈示部と同様に進んだ後,第2主題が出てきます。こちらの方は柔らかく独奏ヴァイオリンで演奏されます。これが他の楽器に引き継がれていきます。マズルカ風のリズムが独奏ヴァイオリンに強く出た後,シンコペーション風に進み,呈示部が終わります。

展開部は管弦楽の全奏で第1主題を短調で演奏して始まります。その後,第2主題が出てきます。独奏ヴァイオリンが静かな雰囲気の中にも装飾的に歌っていきます。トリルで上行した後,対位法的な展開になり緊張感が出てきます。その後,独奏ヴァイオリンが9度の音程を上下し次第に熱を帯びてきます。そのまま再現部に入っていきます。

再現部も力強い全奏で始まります。主要な旋律が次々と出てきます。その後,カデンツァになります。カデンツァは初演者のヨアヒムのものがいちばんよく演奏されますが,その他,クライスラーのものをはじめとして結構沢山の作曲家が作っています。

コーダは第1主題が静かに演奏されて始まります。やがてテンポアップし,最後は歯切れの良い和音で終わります。

第2楽章
オーボエ協奏曲のような雰囲気で始まります。管楽器の合奏の中でオーボエが優美で少し淋しげな歌を歌います。中々独奏ヴァイオリンが出てきませんので有名なヴァイオリニスト兼作曲家のサラサーテなどは「美しい音楽だけれども...私はステージ上でぼんやりと立っていないといけない」といって文句を言ったそうです。その後,独奏ヴァイオリンがこのメロディを引き継ぎます。中間部は短調になり,渋い雰囲気になります。独奏ヴァイオリンが悲劇の主人公のように表情豊かに歌います。その後,再度,前半のオーボエのメロディが出てきますが,今度はヴァイオリンと他の楽器が絡むようにして進んでいきます。うら淋しいまま,曲は終わります。

第3楽章
ヴァイオリンの重音によるエネルギッシュな主題で始まります。ハンガリー風の民族的な躍動感も感じられます。これがロンド主題となって何度も出てきます。オーケストラと独奏との掛け合いのような感じで進んでいきます。独奏ヴァイオリンによって波のようなフレーズが演奏された後,独奏ヴァイオリンがオクターブの重音で音階を上っていきます。

ロンド主題が出てきた後,2番目の副主題が出てきます。こちらは優美に揺れ動くようなものです。半音階的な音の動きがあった後,独奏ヴァイオリンのオクターブの重音が再度出てきます。ロンド主題の後半がまず出てきた後,ロンド主題の前半がオーケストラで元気良く出てきます。その後,カデンツァが入ります。他の楽器が加わってきて,次第に終結部につながっていく気分になります。

コーダでは,テンポが少しアップし,トルコ行進曲風なリズムになります。ロンド主題を変形したメロディを独奏ヴァイオリンが演奏し,次第に緊張感を高めていきます。所々,副主題の面影も出てきます。最後,独奏ヴァイオリンは次第にテンポを落とし,音を弱めていきます。8分休符の後,「ジャン,ジャン,ジャーン」と力強く全曲が結ばれます。(2003/03/05)