ブルックナー Bruckner
■交響曲第6番イ長調

ブルックナーの交響曲は,実演では第3番以降の中期から後期の作品が聞かれることが多いのですが,この6番は初期の交響曲なみに「演奏されない曲」です。そのため,中期以降の曲の中では「ブルックナー的ではない」と言われることのある曲です。「ブルックナー休止」はほとんどなく,重苦しい感じもあまりしません。また,全体にブルックナーとしては珍しくリズミカルな感じもあります。とはいえ,「ブルックナー開始」はあるし,「ブルックナーリズム」もあります。華やかな金管のファンファーレも沢山出てきます。ブルックナーとしては短か目とはいえ演奏時間も1時間近くかかる壮大なものです。

第6番は後期の作品群への転換期に立つ作品で,ブルックナーの交響曲の中では地味な存在ですが,人生の明るい面や平安な朗らかさに目を向けた作品として独自の魅力を持った作品となっています。

第1楽章 マエストーソ イ長調,2/2拍子。ソナタ形式。
指揮者のテンポ設定にもよるのですが,この曲の出だしの部分は,ブルックナーにしてはリズミカルです。ヴァイオリンが「チャッチャ,チャチャチャ」という特徴のあるリズムを刻んで曲は始まります。この繰り返しが弱音で続く中,線の太い第1主題が出てきます。第1主題はイ長調ですが短調のにおいもします。このリズムがしばらく続きますので,何となく「水戸黄門」のテーマ(?)のようなところがあります。この第1主題は,半音階的な音の動きを含むので何となくエキゾチックな感じもします。

このテーマが金管などを中心に豪快に演奏された後,柔らかい第2主題が出てきます。こちらの方は大きな音程の飛躍が特徴で,寂しさと憧れに満ちた美しいものです。この主題が対位法的に展開された後,大きく盛り上がっていき,第3主題になります。この辺の金管楽器の音の動きはブルックナーの他の交響曲にも良く出てくるようなパターンです。最後にフルートだけが残り,呈示部が終わります。

展開部は,呈示部の最後の方の音の動きを受けて始まります。続いて,第1主題をひっくり返したような音の動きとなります。そのうちに,第1主題が元の形で「ババーン」と出てきます。金管のファンファーレを中心にさらに盛り上がり,第1主題が基調で演奏されて再現部に入っていきます。第2主題,第3主題と再現された後,コーダになります。ここではまず,管楽器によって第1主題が静かに演奏されます。次第にこれが盛り上がり,華やかに楽章を結びます。

第2楽章 アダージョ「きわめて荘重に」ヘ長調,4/4拍子,ソナタ形式。
「きわめて荘重に」という指示のとおりの緩徐楽章です。ブルックナーの緩徐楽章としては短い方ですが,全体に哀感が漂っているのが特徴です。短調ではありませんがゆったりとした弦楽器の響きの上にオーボエが歌を歌い始めるとはかなげな気分になります。その後に続く,弱音のティンパニの上に木管とホルンが出てくるあたりは,シベリウスの交響曲のようです。その後,美しく甘い第2主題が出てきます。ヴァイオリンとチェロが対位法的に演奏します。このメロディがいろいろな楽器に移り,テンポがラルゴになります。その後,葬送行進曲風の第3主題になります。

テンポが元に戻り,ホルンが第1主題を出すと展開部になります。展開部は短く,木管楽器が活躍した後,休止が入り,再現部になります。呈示部よりも立体的で色彩的になっています。第3主題はラルゴにはなりません。

コーダは,第2主題の動機で始まりますが,最後に第1主題がゆったりと示されます。低音では,持続する低音が続きます。ヴィオラの半音を使った動きも目立ちます。最後は,弦楽器だけになって静かに終わります。

第3楽章 スケルツォ「速くなく」イ短調,3/4拍子,3部形式。
軽快でリズミカルで変化に富んだスケルツォ楽章です。主部は,独特な幻想味も持っています。低弦が「ボン,ボン,ボン,ボン」とミの音を歯切れ良く刻む上に,ヴァイオリンと木管楽器が対立した主題を出します。この主題がフォルティシモになった後,突然,ピアニシモになります。これが繰り返された後,休止が入り,さらに大きなクライマックスを作ります。この後,この曲では数少ない「ブルックナー休止」が入り,主部を終わります。

中間部のトリオでは,速度を落とし,付点リズムによる音の動きが出てきます。特に,ホルンの重奏が印象的です。その後,交響曲第5番の第1主題テーマが現れます。トリオの後,主部がそのまま再現します。

第4楽章 フィナーレ「運動的に、速すぎずに」イ短調,2/2拍子,ソナタ形式。
まず,序奏があります。ヴィオラのトレモロと低弦のピツィカートの上になめらかなメロディが出てきます。その後,金管で強いアクセントが入ってきます。続いて,第1主題がホルンで力強く演奏されます。弦楽器の方は,その間,せわしなく動いています。トランペットやトロンボーンの響きも出てきて,華やかに盛り上がります。その後は,全ての金管楽器が中心となってブラスバンドのように強烈に主題を演奏します。

ホルンだけが残った後,対称的にやさしい表情を持った第2主題が出てきます。第2ヴァイオリンとヴィオラによる対位法的な音の動きが魅力的な部分です。この主題が力を増していった頂点で第3主題が出てきます。この主題は,管楽器による大らかなものと,オーボエとクラリネットによる軽妙な部分から成っています。

低弦の継続的なファの音の上に第3主題の軽妙な動機が出てきて展開部になります。しばらくすると,テンポが遅くなりチェロが序奏のメロディを演奏します。木管楽器は第3主題を相変わらず演奏しています。休止の後,弦楽器が序奏のメロディをし始めます。その後,金管楽器が強く第1主題を出し,だんだんと再現部に入っていきます。

再現部では第1主題から再現します。呈示部よりは輝かしく演奏されます。第3主題の前半は明確に再現されず,後半の方の軽妙な動機でクライマックスを築いていきます。木管楽器が第1楽章の第1主題のリズムを演奏し,複雑なブルックナー・リズムで展開していきます。一度,楽器の数が少なくなり,速度も遅くなりますが,次第に力を増していき,フェルマータの後,コーダになります。コーダでは第1主題が金管楽器で高らかに出てきた後,第1楽章の第1主題がトロンボーンで出てきて,華やかに,かつすっきりと全曲が結ばれます。(2003/01/10)

(参考) ブルックナー(作曲家別名曲解説ライブラリー5).音楽之友社,1993