ショパン Chopin

■練習曲集
ショパンは,各12曲からなる2集の練習曲集を作曲しています。その他に3曲の練習曲を作曲していますが,通常はこの2集の練習曲集が「ショパンのエチュード」として知られています。合計1時間ほどの長さになりますので,この2集を収録したCDも沢山あります。

ショパンの生きた19世紀前半はピアノという楽器が完成の域に達した時代です。リスト,シューマンも,その演奏技巧の練磨のための練習曲を作曲していますが,ショパンの練習曲もそれらに劣らない名技性と独創性を兼ね備えた作品です。単なる指の運動のための練習曲という意味を超え,演奏会用の作品としても楽しめる作品となっています。

ただし,この練習曲集は,演奏技術が進歩した現代でも全曲演奏を行うのは大変難しいと言われています(逆に言うと,マウリツィオ・ポリーニの全曲録音のように完璧に演奏すれば,それだけで大きなインパクトを聞き手に与えることができます)。それほど画期的な作品と言えます。19世紀には「こんなものを弾いてはならない」と言われた作品ですが,現代ではショパンのピアノ語法のエッセンスの詰められた作品として高い評価がされています。

曲集の中には「革命」「黒鍵」「木枯らし」「別れの曲」といったニックネームの付けられたものがあります。このネーミングは,ショパン自身によるものではありませんが,それぞれ曲の雰囲気にぴったりです。このニックネームもまた,この曲集の人気を高める一つの要因になっているようです。

12の練習曲op.10
変ト長調op.10-5「黒鍵」

右手が黒鍵ばかり弾くのでこのニックネームで呼ばれています。調性のせいか,異次元の世界から聞こえてくるような不思議な華やかさと軽やかさのある曲となっています。クララ・シューマンがこの曲を弾いたとき,ショパンは「もっと良い曲を選んでくれればよかったのに」という内容の手紙を書いています。ショパン自身はあまり高く評価していなかった作品ですが,非常に演奏効果の上がる作品です。

ハ短調op.10-12「革命」
ショパンが故国を後にしてパリに向かう途中,ワルシャワにロシアが侵入したことを知ります。そのことに対する,怒り・悲しみをこめて作曲した作品です。そういう意味では,このニックネームは曲の内容にぴったりです。ハ短調という調性からは,ベートーヴェンのピアノ曲のような重厚さも感じられます。

この曲はショパンのピアノ曲の中でも特に人気の高い曲です。上下に波打つような左手の動きに乗って,右手の方は悲壮感のあるヒロイックな主題をオクターブで演奏します。この部分を聞くだけで,聞き手の心には愛国心が沸き起こります。技術的には左手のための練習曲で,この波打つような音の動きが延々と続きます。曲の最後は,「ダーン,ダーン,ダンダン」と叩きつけるように終わります。
(2005/08/10)