ショパン Chopin

■マズルカ Mazurka

ショパンは,フランス人の父親とポーランド人の母親の下に生まれています。そのことを反映するかのように,彼自身の音楽もこの2つの国の雰囲気を併せ持っているようなところがあります。彼の作ったマズルカは,彼のピアノ曲を「フランス的−ポーランド的」という軸の上に並べたとすると,いちばんポーランド寄りになるジャンルです。

マズルカというのは,ポーランドの代表的な民族舞曲です。その作品を全生涯に渡り60曲近く(従来は51曲と言われていましたが)作曲しているということは,ショパンのポーランドに対する愛国心とこのジャンルに対する愛着を強く示しています。ただし,一くくりにマズルカといっても多様な起源を持つ曲を含んでいます。ショパンはそれをさらに詩的な味わいを持った芸術作品へと様式化しました。民謡をそのまま使った曲はほとんどありませんので,このマズルカというジャンル自体ショパンが作ったものと言っても良いのかもしれません。

マズルカについては次のようなタイプに分けられます。
1.マズレック(マズール)
2.オベレック
3.クヤヴィアック
いずれも3拍子系の舞曲ですが,性格や起源はかなり違っています。以下,簡単に由来とリズム・パターンを紹介しましょう(リズム・パターンはなかなか言葉だけでは伝えられませんが)。

1.マズレック
マゾフシェ地方(ワルシャワを含むポーランド中央部)で17世紀頃から広い階層で流行。リズムは「タタ,タン,タン|タン,ターン|タッカ,タン,タン|タン,ターン」という生き生きしたもので,アクセントは2拍目3拍目に置かれます。

2.オズベック
速く旋回するように踊られる舞曲で,アクセントは規則的に2拍目,3拍目に強調的に置かれます。リズムパターンは「タタタタタタ|タン,ターン|タン,タタタタ|タン,タン,タン」というものです。

3.クヤヴィアク
ショパンの母の故郷クヤヴィ地方(ワルシャワのはるか西方の農村地域)の音楽。1,2とは対照的にゆっくりとしたものでアクセントも強くなくテヌート気味に置かれます。リズム・パターンは「ターン,タタタ|タタ,タン,タタ」というもので,メロディは短調の哀愁味のあるメロディのものが多くなっています。

ショパンはこういったパターンを適宜崩したり,一つマズルカの中でも組み合わせて使っていたりします。マズルカの多くは簡潔な三部形式で書かれていますが,その短い1曲ごとにポーランド人としての民族の血とショパンならではの詩情と創意工夫が注ぎ込まれています。このジャンルもまた,ショパンのトレードマークとなる曲集と言えます。(2005/05/14)