ショパン Chopin

■ピアノ協奏曲第1番ホ短調,op.11
ショパン・コンクールの本選でお馴染みの名曲です。ショパンの作曲した曲の中ではいちばん時間的に長い曲です。ショパンがかなり若い頃に作曲した曲で(実は,第2番の方が先に作曲されているのですが,出版順が逆になりこちらが第1番になっています),曲の作りとしては,古典的な感じです。その中にポーランド風の素朴な雰囲気とショパン独特の甘さがバランス良く含まれており,大変人気の高い曲になっています。なお,この曲を書いた直後にショパンは,ポーランドを去り,二度と戻っていません。そう思って聞くとますますロマンティックに感じられます。

ショパンは,「オーケストレーションが下手」と言われていますが,下手というよりは,かなり独特な作り方をしているのではないかと思います。確かにオーケストラとピアノが有機的に絡み合う部分は少ないようですが,とっても高い音のトランペットが入ったり,どういうわけかトロンボーンが1本入っていたりとオーケストラ伴奏の部分も意外に楽しめます。

第1楽章 長く重くちょっともったいぶった感じの序奏に続き,ピアノが入ってきます。冒頭の動機をきっぱりと弾き出すのですが,すぐに弱くなりセンチメンタルが主題になります(この主題は都はるみの「北の宿から」に似ている,というのが業界(?)の定説になっています。)。第2主題は,歌うように甘美であこがれに満ちたものです。これらの主題が,ショパンらしく,きらびやかに華麗に歌われます。呈示部は,管弦楽の力強い合奏で終わります。展開部は「北の宿から」の主題が長調になって表われます。その後,ピアノの技法を駆使して,転調を繰り返して華やかに展開されます。この辺は,ピアノ独奏曲のような趣きがあります。冒頭の動機がオーケストラで演奏されると再現部になります。最後にアジタートの技巧的な部分が続いて,グッと盛り上がった後,冒頭の動機によるコーダがオーケストラだけで演奏されて締められます。

第2楽章 この楽章については,作曲者自身「美しい春の月明かりの夜のような」と語っています。その通りの音楽です。弱音器付きの弦楽器による序奏に続いて,ホルンが一吹きすると,「ほとんどノクターン」といった美しく陶然とした雰囲気になります。主題は2つの部分に分かれており後半の方はファゴットなどが対旋律を付けて,ロマンティックな雰囲気をさらに盛り上げてくれます。中間部はちょっと暗い雰囲気になりますが,再度ノクターンの雰囲気に戻ります。ここでもファゴットが対旋律を演奏しています。一瞬,疑問を挟むかのように下降するカデンツァが入りますが,すぐに最初の主題に戻ります。ピアノの3連符の動きが続く中,次第に弱まって行きます。

第3楽章 前の楽章から休みなく演奏されます。軽やかな民俗的なロンド楽章ですが,どこか優雅で気品があります。この主題は「クラコヴィアク風」ということです。クラコヴィアクというのは,ポーランド南部のクラクフ地方のシンコペーションを多用した軽快な民俗舞踏です。伴奏のオーケストラでは,トランペットの高音が目立ちます。中間部には,とても優雅な副主題が出てきますが,その後は再度,技巧的なパッセージが続きます。再度,副主題が演奏された後,華やかなコーダとなります。ピアノが音階を駆け上がったり下りたりして華やかに曲は結ばれます。なお,ショパン・コンクールでは,ピアノがこの華やかな音階を弾き終えた後,オーケストラ伴奏が残っているにも関わらず,曲の途中で拍手するのが慣例になっています。1986年の「ブーニン・フィーバー(死語です)」の頃の来日公演のライブCDでもそのような拍手が入っています。(2002/3/30)