ショパン Chopin

■ポロネーズ

ポロネーズというのは,その名のとおりポーランドの代表的な民俗舞曲の一つです。古くは農民の間で踊られた舞曲らしいのですが,その起源ははっきりしません。3拍子の中ぐらいの速さで行列して歩くように踊る音楽で,堂々とした雰囲気があります。基本的なリズムは,「タン・タタ・タン・タン・タン・タン」という感じです。

ショパンは,ポーランド出身ということで,このリズムに子供の頃から親しんでいたと思われます。ワルシャワに住んでいた時代から,パリ時代にかけて全部で16曲のポロネーズを作曲しています(実際はもっと多かったのかもしれませんが,現存しているのは16曲です)。ポロネーズと並ぶポーランドの民族舞曲としてマズルカがありますが,それらに比べるとポロネーズの規模はもっと大きいものです。ショパンが民族的主張を力強く表現しようとしたジャンルといえます。

第6番変イ長調,op.53「英雄」
ショパンのポロネーズは,逆境時代のポーランドの憂鬱に満ちた曲と士気を高揚させるような強いリズムを持つものの2つに分けられますが,この「英雄ポロネーズ」は,後者の代表です。非常に力強く華やかな曲ですので,ピアノ・リサイタルのアンコールとして弾かれることも多く,ショパンの全作品の中でも特に人気の高い曲となっています。

曲は3部形式で出来ています。まず,堂々とした序奏で始まります。徐々に盛り上がっていくような期待感をはらんだ素晴らしい序奏です。続いて,高らかにポロネーズの主題が登場してきます。まさにヒロイックなテーマです。途中短調の部分が出てきますが,すぐにポロネーズの主題が戻ってきます。

中間部はアルペジオ風に弾かれる和音の連続で始まります。左手の方は下降していく音を執拗に繰り返します。これが次第に高潮していきます。続いて,長調の新しいモチーフが出てきて一息つきます。最後に,ポロネーズ主題がffで戻ってきます。最後は力強いコーダで全曲が結ばれます。(2002/10/08)

幻想ポロネーズ(第7番)変イ長調,op.61
「ポロネーズ」といえば,「力強いリズム」というイメージがありますが,その期待を裏切り,逆に優美で幻想的なムードを付け加えて作曲されたのがこの幻想ポロネーズです。ショパンのポロネーズの中だけではなく,全作品の中でも特に独創的な作品となっています。ショパンの最高傑作の一つと言われている作品です。

この作品は,ショパンが肉体的にも精神的にも衰えを見せ始め,ジョルジュ・サンドとの仲も決別寸前という最晩年に作曲されました。ポーランド情緒の中に時々複雑で苦悶に満ちた表情が出てくるのもその状況を反映していると考えられます。

曲中にはその名のとおり「ポロネーズ」のリズムが出てきますが,それは力強いエネルギーを持ったものではなく,幻想曲の間に断片的現われて来るだけです。そのためこの曲は「優柔不断な曲」として長い間理解されて来ませんでした。

曲は4つの主題を中心に成っていますが,自由な形式で書かれています。。全体は3つの部分から成っています。

第1部は,自由な転調を繰り返す幻想的でスケールの大きい序奏で始まります。その後,ポロネーズのリズムに乗って第1主題が出てきます。これが展開された後,第2主題とその展開と続きます。第1主題が展開された後,第3主題とその展開となります。ここまでに出てくる主題は,いずれも転調を繰り返しますので,明るいのか暗いのか分からないムードに覆われています。

第2部は,ほっと一息つくように静かなコラール風の間奏で始まります。その後,第4主題,第3主題の変形と続きます。

第3部は序奏が縮小された形で再現されます。これまでのいくつかの主題が再現された後,次第に大きく盛り上がり,勇壮なコーダとなります。一旦静かになった後,最後に一撃が加えられて全曲は終わります。(2006/01/14)