ショパン Chopin

■スケルツォ Scherzo
”スケルツォ”というのはイタリア語で「冗談」「おどけ」といった意味を持っています。クラシック音楽の世界では,ベートーヴェンの交響曲の第3楽章によく出てくる形式として知られています。ベートーヴェンの場合をはじめとして,通常は,この意味どおりちょっとおどけた感じの快活な曲が多いのですが,ショパンの作った4曲のスケルツォは一味違います。語義を逆手に取るかのように激しい感情をぶつけたシリアスな雰囲気で始まる作品がほとんどです(第4番だけは本来のスケルツォ的です)。

ショパンがスケルツォを作った時期は,彼のバラード同様,彼の円熟期と言っても良い1830年から1842年までの約10年です。各曲の長さや,全4曲という曲数の点でも,バラードと共通点があります。曲の形式もソナタ形式または三部形式で,聞き応えのあるまとまりの良さを持っています。どちらも彼の心情を率直に表現している音楽形式といえます(スケルツォとバラードの合計8曲セットで1枚のCDに成っている場合もよくあります)。スケルツォの方は,叙情的な気分を持つバラードよりも率直で起伏に富んだ感情表現が聞けるのが特徴となっています。

第2番
4曲の中でいちばん有名な作品です。この曲が作曲された1837年は,幼馴染みのヴォジンスカへの失恋が決定的となり,ジョルジュ・サンドへの接近が始まった年ですが,この曲の持つドラマティックな感情の起伏の大きさにはサンドとの交際の影響があるのかもしれません。

曲は,「タラララ,タラララ」という弱音で始まった後(この部分,「トコロテン,トコロテン」と聞こえるという人もいますね),いきなり「パン,パーン」と力強く上昇する音型が続きます。この静と動の受け答えを持った第1主題は,ショパンの曲の中でも特に印象的なものです。この対比が繰り返された後,夢見るような滑らかな流れを持った第2主題が続き,幸福感に満ちた気分になります。その後,第1主題と第2主題が繰り返されます。この感情の起伏の豊かさがこの曲の大きな魅力です。

中間部は,物思いにふけるようなメランコリックな楽想で始まります。その後,きらめくような高音部の音が出てきたり,ワルツ風になったりしながら,次第に華やかな気分になって行きます。これが繰り返された後,さらに技巧を凝らした展開部になり,暗い切迫感を増しながらも華やかなクライマックスを築きます。

その後,冒頭の第1主題・第2主題が再現されたます。それに続くコーダは大変力強いものです。これまでミステリアスな気分を持っていた「タラララ,タラララ」という問いかけに対して,やっと満足の行く答えが出たような感じで堂々と締めくくられます。

(参考文献)名曲名盤ショパン/佐藤泰一(ON Books).音楽之友社,1998
作曲家別名曲解説ライブラリー4.ショパン.音楽之友社,1993

(2005/08/09)