ショパン Chopin

■ワルツ集 Waltzes

ショパンのピアノ曲の中でも特に人気のあるのがこのワルツ集です。華やかな躍動感のあるものから,メランコリックでしっとりとした味を持った作品までバラエティに富んだ性格の曲を含んでいます。

従来,ショパンのワルツといえば「14のワルツ」と呼ばれていましたが,現在では19曲が知られています。この19曲のうち生前に発表されたものは8曲だけです。それ以外の後のものは彼の死後,遺作として出版されています。

これらのワルツは,全曲続けて演奏するために作られたわけではありませんが,CD録音などでは14曲または19曲を「ワルツ集」として収録することが普通です。演奏会でもワルツ全曲が取り上げられることが時々あります。曲想が変化に富んでいる一方で,ワルツとしてのまとまりがあるため,このような聞かれ方がするのだと思います。

その際,どういう曲順で演奏されるかも鑑賞の楽しみの一つとなります。独自の順番で演奏されたものの中でいちばん有名なものが1950年に33歳の若さで亡くなったディヌ・リパッティの録音です。彼のワルツ集の録音にはスタジオ録音以外にも死の直前にブザンソンで行われた演奏会を収録したライブ録音が残されています。ライブ録音の方は14曲中13曲のワルツしか収録されていませんが,それは彼の体力が尽きてしまい,演奏できなかったためです。これは彼の「最後の演奏会」となりました。ある意味では非常に痛々しい記録と言えます。

このショパンのワルツ集には,上述のとおりいろいろなタイプの曲を含んでいますが,実際の舞踏用に使える曲はあまりありません。シュトラウスのワルツのような大衆的なものではなく,「聞くためのワルツ」になっています。シューマンもこのワルツ集について「もしも踊るとしたら,相手の夫人たちの半分は伯爵夫人でなければならない」という言葉を残しています。ショパンのピアノ曲の中でももっとも洗練された雰囲気を持った作品群といえます。
(2005/05/12)

第6番変ニ長調,op.64-1「小犬」
ショパンのワルツ中のみならず全作品の中でも最も有名な曲の一つです。「小犬のワルツ」というニックネームは,ジョルジュ・サンドの飼っていた犬に自分の尻尾を追ってグルグル回る癖があり,それを曲として表現した,という言い伝えがあるためです。

そのグルグル回るようなめまぐるしいスピード感がこの曲のいちばんの特徴です。右手だけによる4小節の序奏の後,左手にワルツのリズムが登場し,その上に「ぐるぐる回り,上下に動く」主旋律が出てきます。中間部はテンポを少し落とし,甘い気分になり,主部と対比を作ります。最後,また最初の「ぐるぐる回る」メロディが戻ってきて,コーダなしであっさりと終わります。

この曲は,通常2分以内であっという間に終わってしまいますので,「小犬」というあだ名以外に,欧米では「瞬時のワルツ」とか「1分間のワルツ」と呼ばれることもあります。いずれにしても,その軽妙で滑らかな美しさが,聞く人に「一瞬の幸福」を感じさせてくれるような名曲です。

ただし,このワルツは,ショパンの生前に公表された最後の3曲の一つです。(2006/01/14)