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コープランド Copland
「アパラチアの春」組曲 Appalachian Spring
コープランドが,1944年にマーサ・グラハムのために書いたバレエ音楽が「アパラチアの春」です。このバレエは,19世紀初頭のペンシルヴァニアのクェーカー教徒の素朴な開拓者村に新郎新婦が生まれた情景を描いたものです。透明感のある叙情性と生き生きとしたリズムの交錯の中で,厳しい冬の後に訪れる春の喜びと結婚の喜びとが魅力的に描かれています。コープランドの代表作といっても良い作品です。

このバレエは,大変好評で,コープランドは,1945年にピューリッツァー賞とニューヨーク音楽評論家賞を受賞しています。

当初,コープランドはこの作品に題を付けておらず,単に「マーサのためのバレエ」と呼んでいましたが,初演の直前にグラハムが,ハート・クレインの詩の一節である「アパラチアの春」という題を提案し,その後は,この標題で呼ばれています。

この作品は,その後,組曲にまとめられ,現在ではこの組曲版が一般的に知られています。その後,さらに大きな編成用に編曲された版もあります。まとめると以下のとおりとなります。

(1)バレエ音楽版 1943〜1944年,13楽器用
(2)組曲版 1945年,2管編成オーケストラ
(3)組曲版 1956年,大編成オーケストラ

以下,(2)の1945年の組曲版について説明をします。曲は,続けて演奏される次の8つの部分からなります。

1.非常にゆっくりと Very slowly
イ調クラリネットの吹く静かなメロディで始まります。登場人物のひとりずつにスポット・ライトが当てられ紹介される場面の音楽です。このバレエの基調を作っています。

2.速くAllegro(主要主題の暗示)
突然,弦楽合奏のユニゾンによる生き生きとした音楽が始まります。結婚式の参会者の気分の高揚を表現しています。

3.モデラート Moderato 花嫁とその婚約者のための二重奏
変ロ調クラリネットが表情豊かに歌う間奏曲風の部分です。新郎新婦による睦まじい踊りです。

4.かなり速く Fast 信仰復興運動家とその信徒たち
素朴で愉快な雰囲気のあるスクウェア・ダンス風の音楽です。

5.もっと速く Allegro 花嫁の独舞
「恐れ」「驚き」を表現した,花嫁の独舞。次第にテンポが速くなり,輝かしいクライマックスに達します。

6.非常に緩やかに Molto moderato(経過部)
冒頭の静かな雰囲気が再現する移行の場面の音楽です。

7.静かに流れるように Doppio movimento(若い夫婦の日常生活の情景で、シェーカー派の賛美歌を主題とする5つの変奏とコーダ)
花嫁と農夫である夫の日々の仕事を描く部分で,全曲のクライマックスです。まず,シェーカー派の賛美歌による主題が変ロ調クラリネットで演奏されます。この主題は、エドワード・D・アンドリュースによって集められたもので「シンプル・ギフト」と呼ばれるものです。その後,5つの変奏曲が続きます。

8.中ぐらいの早さ Moderato コーダ
続いて,コーダとなり,夫婦は新しい家で静かに,力強い気持ちを抱き,祈りをささげます。弱音器付きの弦楽器が,静かな祈りのようなコラールを演奏する部分が続きます。そして,冒頭の音楽の追想の中で全曲が閉じられます。

(参考)Wikipedia の「アパラチアの春」の項目
(2007/10/17)