コレッリ Corelli
■合奏協奏曲集(全12曲)op.6
コレッリ(コレルリと表記することもあります)は,バッハ,ヘンデル,やヴァルディの少し前の時代に活躍したイタリアの作曲家です。彼自身ヴァイオリンニストだったこともあり,ヴァイオリンを中心としたソナタや協奏曲が主要な作品となっています。その中でもいちばんよく知られているのが,この12曲からなる合奏協奏曲集です。

合奏協奏曲というのは,少数のソリストと合奏グループを対比させながら曲が進んで行くバロック音楽を代表する形式です。この当時の協奏曲の形式には,次の2種類の楽章構成があります。
  • 教会コンチェルト:緩(ホモフィニック)−急(ポリフォニック)−緩(ホモフィニック)−急(ポリフォニック):厳粛な内容。その名のとおり本来は教会の儀式用の音楽でした。
  • 室内コンチェルト:アルマンド,クーラント,サラバンド...といったいろいろなリズムや速さの踊りを合わせたもの。フランスの組曲の形式と同じで宮廷で娯楽用に演奏されたものです。
この協奏曲集にもこの2つのタイプが含まれています。コレッリは,この2つのタイプをかなり自由に捉え,融合させようと試みている点が注目される点です。

●第8番ト短調op.6-8「クリスマス・コンチェルト」
この曲集でいちばん有名な曲です。コレッリ自身「キリスト降誕の夜のために作曲した」と書いているとおり,クリスマスの真夜中のミサ用の曲として作曲されました。そのためにこのタイトルで呼ばれます。

ヘンデルのオラトリオ「メサイア」の途中にキリスト降誕の夜の雰囲気を表すために,パストラールという牧歌的な曲が入っていますが,このクリスマス・コンチェルトの最後の楽章も「パストラール」となっています。当時は,クリスマスの音楽といえば,パストラールだったようです。

ちなみに,コレッリと同時代のイタリアの作曲家に「トレッリ」という人もいます。ややこしいことにこの人も「クリスマス・コンチェルト」を作曲していますので,お間違えのないようにご注意下さい。

第1楽章 ヴィヴァーチェ−グラーヴェ
暗く短い導入の後,荘重なグラーヴェになります。半音進行が対位法的に積み重ねられ,クリスマスの厳粛な雰囲気を描きます。コレッリはここで「楽譜どおり弾くように」と装飾音符禁止令を出しています。

第2楽章 アレグロ
テンポが速くなります。チェロの動きのある伴奏の上に,2本のヴァイオリンが絡み合いながら進んで行きます。

第3楽章 アダージョ−アレグロ−アダージョ
2つのソロヴァイオリンが優雅なメロディを掛け合いで演奏します。聖歌のような深い情緒をたたえています。中間部はアレグロにテンポが変わり,活発で小気味良い感じになります。第1ヴァイオリンの分散和音と第2ヴァイオリンの飛跳ねるような音型が絡み合います。最後にアダージョが再現し,短いコーダがあって終わります。

第4楽章 ヴィヴァーチェ
この楽章はサラバンドのリズムで書かれています。キリストの降誕を祝う人々の歓喜を現すような明るさがあります(といっても短調の曲ですが)。

第5楽章 アレグロ
この楽章はガヴォットのリズムを持っています。この第4,5楽章は教会ソナタの中に室内ソナタ的な楽章が入っていると言えます。最初の主題が後半部の最後に再現して,自由な経過部が続いた後,静かに次の楽章に続いて行きます。

第6楽章 パストラール(ラルゴ)
8/12拍子のシチリア舞曲風のリズムを持っています。この曲で初めてト長調になりますので,これまで立ち込めていた霧がサーっと晴れたような気分になります。持続する低音の上に,2つのヴァイオリン・ソロが牧歌風の美しいメロディをハモりながら演奏します。中間部では各声部の掛け合い,pとfの対比などが聞かれます。最後に最初のメロディが再現し,最後は静かに消えるように終わります。

ちなみに,この楽章の最初には,「ad libitum お好きなように」といった言葉が書かれています。この楽章は演奏してもしなくても結構,とも読めるのですが...この美しい楽章を演奏しないわけにはいかないでしょう(この楽章がないと「クリスマス」にならない?)。テンポの設定や装飾音符について「お好きなように」と言っているのではないかという説もあります。

(参考)
最新名曲解説全集8;協奏曲I.音楽之友社,1979
ルネサンス・バロック:名曲名盤100/皆川達夫著(On Books).音楽之友社,1992
(2003/11/25)