OEKfan TOP > 曲目解説集  Program Notes
ドビュッシー Debussy
版画 Estampes

ドビュッシーの管弦楽曲では、「牧神の午後への前奏曲」が、いわゆる印象派への転機となった作品と言われていますが、ピアノ独奏曲の方では、「搭」「グラナダの夕」「雨の庭」という3曲からなるこの作品が、「映像」とともに、がドビュッシーの作風の転機となったと言われています。曲は伝統的な「長調/短調」の支配や、感情本位の力学から解放されており、一言でいうと、捉えどころのないような”ドビュッシーらしさ”が前面に出ています。その点で、ピアノの音楽の歴史の中でも画期的な作品と言えます。

なお、ドビュッシーについては、「印象派」の作曲家として語られることが多いのですが、彼自身、東洋にもグラナダにも行ったことはないので、この曲は印象で書いたのではなく、想像で書いたことになります。「印象派」というレッテルは別として、いろいろなイメージを想起させてくれる、独特のピアノの響きの世界に浸って聞くべき作品でしょう。曲はそれぞれ、東洋、スペイン、フランスのムードを題材にしていますが、「版画」というタイトルからは、日本の浮世絵を連想させるところもあります。

作品は1903年7月に書かれ、初演は1904年1月9日に、リカルド・ビニェスによって行われています。

第1曲 搭(パゴダ) Pagodes
「搭」と言えば「タワー」という英語を思い浮かべる人も多いと思いますが、この曲で言う「搭」は、「パゴダ(仏搭)を指しています。1889年にパリで開催された万国博覧会で聞いた、インドネシアのバリ島民によるガムラン音楽からインスピレーションを得て作られたと言われている曲で、全曲を通じ、東洋的な5音階(ペンタトニック)からなる主題が登場します。曲は精妙な雰囲気で始まった後、オリエンタルな主題がリズムや雰囲気を変えながら何度も繰り返され、華麗さを加えていきます。

第2曲 グラナダの夕べ Soiree dans Grenade
スペインの古都グラナダの夕暮れのイメージをハバネラのリズムをベースとして描いた曲です。ハバネラのリズムに重なるのは、ムーア人の歌で、アラビア風の音階で書かれています。これにギターを模したフレーズが加わり、夕暮れのスペイン情緒たっぷりの曲となっています。スペインの作曲家ファリャは、この曲について「ドビュッシーはスペインを知らずに、スペインの真髄をとらえた」と絶賛しています。

第3曲 雨の庭 Jardins sous la pluie
雨がザーザーと庭に降る様子を描写した曲です。絶え間なく続く16分音符が、強まったり弱まったりを繰り返す雨足の変化を表しています。曲の中では,古いフランスの童謡「幼な児よ、眠れ( Dodo, l'enfant do)」や「私たちはもう森へは行かない (Nous n'irons plus aux bois)」やが引用されています。最後は、空が晴れ上がったように、明るい響きで締められます。

(参考文献)
作曲家別名曲解説ライブラリー.ドビュッシー.音楽之友社,1993
名曲ガイドシリーズ 器楽曲.中. 音楽之友社,1984
(2012/11/24)