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ドヴォルザーク Dvorak
セレナード ホ長調 op.22(B52)

ドヴォルザークはセレナードというタイトルの作品を2曲残しています。一つは弦楽合奏用,もう一つは管楽アンサンブル用の作品で,どちらも親しまれていますが,特に弦楽合奏のためのセレナードの方は,チャイコフスキーの弦楽セレナードと並んでよく演奏されています。この組み合わせのCDも沢山出ています。

この曲は,オーストラリア政府が才能ある若い芸術家に出していた国家奨学金の受賞者にドヴォルザークが選ばれた1875年に作曲されています。この奨学金は1年間に400グルデンという高額で(当時のドヴォルザークの年間収入は180グルデンでした),これに気を良くするかのように,この時期ドヴォルザークは多くの作品を作曲しています。その気分が曲想にも表れており,落ち着いた柔らかな弦の響きと,気取らない陽気な気分に溢れた親しみやすい作品になっています。

初演は1876年にプラハで行われています。

曲は全部で5つの楽章からなっていますが,ロンド・ソナタ形式風の終楽章以外は三部形式となっており,形式的には比較的自由です。各楽章とも,主題をカノン風に呈示している点も特徴です。

第1楽章 モデラート,ホ長調 4/4 三部形式
八分音符のリズムを刻み続けるヴィオラに乗って,第2ヴァイオリンとチェロがなだらかな起伏を持った抒情的な主要主題を歌い始めて曲は始まります。第1ヴァイオリンが舞い上がるような対旋律を歌い出す中、第2ヴァイオリンが広い音域の中を動き回って旋律主題を歌い継いで行きます。

中間部ではト長調に転調し,飛び跳ねるような付点リズムが特徴的主題が舞曲風の主題が出てきます。その後,ホ長調の主要主題が出てきて,第1部際限されます。この部分では,ヴィオラとチェロの分奏や対位旋律が工夫されており,第1部より響きに厚みが出ています。最後は,ホ長調の主和音で終わります。

第2楽章 テンポ・ディ・ヴァルス,嬰ハ短調,3/4
揺れ動くような舞曲風の嬰ハ短調の主題で始まります。この主題はショパンのワルツ作品64の2の第2主題とそっくりの音型です(調性も同じ!)。これが何回か繰り返された後,ホ長調の部分になります。この部分の後半では,付点リズムが特徴的なメロディが出てきます。その後,最初の主題が再帰します。最後に嬰ハ短調の主和音がフォルティッシモで演奏されて,第1部が終わります。

第2部は変ニ長調に転調します(この転調の仕方もショパンのワルツと同じです)。この部分では,カノン風の反復が効果的に使われており,陶酔的な気分を作っています。その後,第1部に戻ります。楽章の最後は,再びフォルティッシモの嬰ハ長調の和音で締められます。ちなみにこの部分では,ピカルディ終止という和音が使われています。これまで短調だったのが急に明るくなるような,バロック音楽などに時々見られる終わり方です。

第3楽章 スケルツォ ヴィヴァーチェ へ長調 2/4
軽快に動きまわる,4分の2拍子のスケルツォ楽章です。ここでも主題は,カノンで提示されており,いきなり追いかけっこが始まるようなユーモラスな気分になります。その後もいろいろな楽節が生き生きと展開さます。

途中テンポが少し遅くなり,イ長調のトリオになりますが,この主題も最初の主題と同じ素材からできていますので,単主題的な楽章と言えます。この部分の結びにもスケルツォ主題が織り込まれて移行部を作った後,最初の部分に戻ります。終結部にもこのスケルツォ主題が現れて,明るく締められます。

第4楽章 ラルゲット イ長調 2/4
前の楽章から一転して,静けさと憧れに満ちた緩徐楽章となっています。最初に第1ヴァイオリンによって流れるようなメロディが演奏されます。この主題は,他の楽器の対位旋律に支えられており,憂いを帯びた気分が大きく広がっていきます。中間部では曲想は一転し,軽い足取りになりますが,嬰ハ短調ということで,どこか神秘的な雰囲気もあります。その後,最初の部分が再現されて,楽章が締められます。

第5楽章 終曲 アレグロ・ヴィヴァーチェ 嬰ヘ短調−ホ長調 2/4
第3楽章の雰囲気が戻ってくるかのように,生き生きとした気分で始まります。この楽章でも主題はカノンになっており,ヴァイオリンとそれ以外の楽器の2組に分かれて,掛け合いをします。楽章の形式は,変則的なロンド・ソナタ形式になっており,別のフレーズが所々で挿入されます。

展開部にあたる部分では,第4楽章の主題がチェロによって演奏されます。ロンド主題が出てきて,ソナタ形式の再現部のような気分になったところで,曲全体を振り返るように,第1主題の最初の主題が懐かしさたっぷりに回想されます。その後,テンポが一気にプレストにアップして,ロンド主題によって全曲が締められます。

(参考文献)
作曲家別名曲解説ライブラリー6.ドヴォルザーク.音楽之友社,1993
Wikipedia

(2013/03/23)