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ドヴォルザーク Dvorak
交響曲第8番ト長調op.88

ドヴォルザークの交響曲といえば,何といっても「新世界から」が有名ですが,それに次いで人気の高いのがこの第8番です。「新世界」の方は,有名になり過ぎてしまったところがありますので,近年,プロ・オーケストラの定期公演などでは,むしろ第8番の方が好まれている気もします(ただし,いわゆる「名曲コンサート」や外来オーケストラの来日公演などでは,相変わらず「新世界」の方が圧倒的によく演奏されていますね。)。

ドヴォルザークの交響曲は,ブラームスの交響曲の影響を受けたドイツ的な性格と,チェコ出身の作曲家ならではのボヘミアの民族音楽的な性格の2つの要素を併せ持っています。作品によって傾向は違いますが,交響曲第8番については,ボヘミアのローカル色の豊かな,大変親しみやすい作品となっています。

この曲は,第7番までの交響曲を出版していたジムロックというドイツの出版社からではなく,諸般の事情で,イギリスのノヴェロという出版社から楽譜が出版されました。そのことによって,「イギリス」というサブタイトルで呼ばれることがありますが,音楽的な内容とは全く関係ありません。曲想的にいうと,「ボヘミア」と呼ぶべきでしょう。

「新世界」交響曲同様,”全編聞き所”と言っても良い作品ですが,特に第3楽章のスラヴ舞曲風の哀愁に満ちたメロディは,一度聴いたら忘れられない印象的な美しさを持っています。初演はドヴォルザーク自身の指揮によって,1890年に行われ,大成功を博しました。

楽器編成:フルート2(2番はピッコロ持ち替え),オーボエ2(2番はイングリッシュ・ホルン持ち替え),クラリネット2,ファゴット2,ホルン4,トランペット2,トロンボーン3,テューバ,ティンパニ,弦5部

第1楽章 アレグロ・コン・ブリオ,ト長調,4/4,自由なソナタ形式
曲は,チェロとクラリネットとホルンによる,しっとりとした哀愁に満ちた流麗なメロディで始まります。このト短調のメロディは,コラール風の雰囲気もあり,曲の序奏部のように思えますが,実は,第1主題の第1句に当たります。続いて,フルートによって小鳥が鳴くような「ピョンコ,ピョンコ」という可愛らしい雰囲気を持った第1主題第2句がト長調で演奏されます。この「ピョンコ,ピョンコ」というリズムは,有名なユモレスクにも出てきますので,ドヴォルザークお得意のリズムなのかもしれません。

なお,この曲全体の調性はト長調となっています。第1主題第1句はト短調なので,この第2句の方を主要主題と捉えることもできます。この2つの句による経過部が次第に輝きを増し,ティンパニがビシっと締めた後,低音弦に行進曲風のト長調のメロディが印象的に出てきます。これは,第1主題第1句中の動機を使ったものです。

さらに経過部が続いた後,今度はロ短調で第2主題第1句が木管楽器によってリズミカルに演奏されます。この句は第1主題第2句が変奏されたような感じのもので,その後,展開風に扱われます。力強さを増し,ホルンによる信号が出てきた後,それに答えるように第2主題第2句がロ長調で登場します。この句もまた木管楽器によって柔らかく演奏されます。それが全管弦楽で力強く繰り返された後,第1主題第1句を暗示するようなフレーズが出て,静かに呈示部は終わります。

展開部は,第1主題第1句で静かに始まります。第2句の方も呈示部同様フルートによって演奏されますので,曲の最初に戻ったように思えますが,その後はオーボエが加わるなど,違った動きが始まります。いりいろな管楽器が次々とソリスティックに活躍しながら,次第に活気を帯び,最後に強烈なクライマックスを作ったところで展開部が終わり,そのまま,トランペットが第1主題第1句をファンファーレのように高らかに演奏して,再現部になります。

第1主題第2句の方はイングリッシュ・ホルンで演奏されます。速度が一旦遅くなり,静かな空気に包まれた後,第2主題第1句がクラリネットに出てきます。その後,公式どおりに再現部が進みます。最後は,第1主題第2句や第2主題第1句の「ピョンコ,ピョンコ」のリズムを中心に華やかに盛り上がった後,力強く締められます。

第2楽章 アダージョ,ハ短調,2/4,不規則な3部形式
落ち着きのある,ローカル色を持ったメロディが弦楽合奏で柔らかく演奏されて楽章は始まります。その後,フルートとオーボエによる,小鳥の鳴き声を思わせるフレーズが続きます。この部分はハ短調なのですが,それほど暗いは感じはなく,独特の間合いを取りながら進んでいきます。

その後,第2部となり,低弦楽器が繰り返す軽快なリズムと忙しく動くヴァイオリンの音型の上で,フルートとオーボエがのどかで優美なメロディを演奏する部分になります。独奏ヴァイオリンが引き継いだ後,曲は次第に大きく盛り上がります。

金管楽器とティンパニによるクライマックスの後,急に静かな雰囲気になり,小鳥の声のフレーズがまた戻ってきます。楽章の最初のメロディも戻ってきますが,ここでは切迫感が増し,もっと力強い雰囲気になっています。その頂点のあと,第2部に出てきたメロディが弦と管の役割が逆になって出てきます。

最後の部分で,一旦大きく盛り上がりますが長続きはせず,小鳥の鳴き声のフレーズを伴いながら,静かに終わります。

第3楽章 アレグレット・グラチオーソ,ト短調,3/8,3部形式
スラヴ舞曲が洗練されたような叙情的美しさを持った楽章です。木管楽器による動きのある伴奏の上に,ヴァイオリンが,一度聞いたら忘れられないようなメランコリックな美しさを持ったメロディを鮮烈に演奏して楽章は始まります。このメロディが少しずつ変形されながら何回か繰り返された後,トリオになります。

トリオは,ト長調のワルツで,フルートとオーボエによって夢見るように演奏されます。その後,弦楽器に引き継がれ,甘美さを増します。このメロディは,1幕ものの歌劇「がんこ者たち」に出てくる歌の転用です。

その後,第1部が再現されます。コーダの部分は,トリオの部分が倍の速さに変形されて演奏され,クライマックスを作った後,消えるように結ばれます。

第4楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ,ト長調,2/4,ソナタ形式の原理を織り込んだ変奏曲
トランペットが行進曲風のファンファーレを「パン,パカ,パーン,パ...」と高らかに演奏して楽章は始まります。これが静かに消えた後,チェロが第1楽章第2句から導かれたエキゾティックな主題をゆったりと演奏します。その後,この主題が,次のとおり変奏されていきます。
  • 第1変奏 低音弦にファゴットが加わり,ヴァイオリンがその上で装飾
  • 第2変奏 全管楽器が力強く勇壮に演奏する印象的な部分。以前,「題名のない音楽会」で,この変奏をチンドン屋が演奏するのを聞いたことがありますが,ちょっと泥臭い雰囲気がぴったりでした。この変奏は,ホルンを中心とした管楽器の強烈なトリルも大変印象的なもので,ロンド主題のように再現します。
  • 第3変奏 トランペットとファゴットが輪郭を出した後,弦楽器のトレモロの上でフルートが華麗なパッセージを演奏します。このソロは,2人がかりで演奏する,大変長大なもので,この楽章の大きな聞き所となっています。
  • 第4変奏 第2変奏と同じもので,再度,賑々しく盛り上がります。
  • 第5変奏 弦楽器による経過風の部分に続いて,ハ短調のエキゾティックな部分になります。トルコの軍楽を思わせるような独特のリズムの上にオーボエとクラリネットが印象的なメロディを演奏しますが,この部分を聞くと,童謡「こがねむし」を思い出す人が多いでしょう。この部分は,ソナタ形式でいうと,第2主題に該当します。
  • 第6変奏〜第10変奏 この主題をもとに,「こがねむし」変奏曲という感じで盛り上がっていきます。
  • 第11変奏〜第12変奏 そのクライマックスで経過風の部分になった後,木管,弦の順番に主題を出し,展開部に当たる部分になります。

その後,強烈な和音でト短調に戻り,楽章最初の金管のファンファーレが戻ってきます。その後,チェロが主題を演奏し,再現部に当たる部分になります。ここから再度変奏が始まります。その第4変奏は,前半の「チンドン屋」風の部分になります。そして,そのまま全曲のコーダになだれ込みます。曲は,次第にテンポアップし,騒々しいお祭り騒ぎのような中で,力強く締めくくられます。

(参考文献)
作曲家別名曲解説ライブラリー6.ドヴォルザーク.音楽之友社,1993
(2010/06/12)