ガーシュイン Gershwin

■パリのアメリカ人
ガーシュインのオーケストラ作品の代表作です。ガーシュインは,ラプソディ・イン・ブルー,ピアノ協奏曲といったピアノの入る作品やポピュラーなヴォーカル曲によって1920年代の前半で既に人気作曲家になっていました。「パリのアメリカ人」は,1928年に休養と勉強を兼ねてガーシュインがパリに旅行した時の経験を交響詩的にまとめたものです。

このパリ旅行中,ガーシュインは尊敬するラヴェル,ストラヴィンスキーに作曲法を習おうとしているのですが,ラヴェルには「一流のガーシュインなのに,二流のラヴェルになることはない」と言われ,ストラヴィンスキーには「年間5万ドル稼いでいる?こちらの方が教えてもらいたい」などと言われ,結局教えてもらえなかったようです。からかわれたのか本当に一目置かれていたのかはわかりませんが,音楽史に残るエピソードです。そういう時期に書かれた曲だけあって,ガーシュインの曲の中でもいちばんシンフォニックな標題音楽となっています。

この曲は,ミュージカル映画の古典「巴里のアメリカ人」(パリではなく巴里でないと感じが出ませんね)のクライマックスでは,ほぼこの曲全曲にバレエの振付けがされ,ジーン・ケリーとレスリー・キャロンなどを中心とした大規模なダンス・シーンとなっています。ミュージカル映画全盛期を象徴する名場面となっています。

曲は続けて演奏される3つの部分から成っています。急・緩・急の構成です。楽器の編成は,サキソフォンやクラクションが入る以外は,ほぼ通常のオーケストラの編成となっています。

最初の部分はパリの大通りを好奇心の目で眺め歩く”おのぼりさん”的シーンです。快適に闊歩するようなリズミカルな主題の中に木琴やクラクションの音が絡まってきます。大都市の雑踏を鮮やかに描いています。もちろんジャズのテイストも含んでいます。独奏ヴァイオリンは,優雅なパリジェンヌを描いています。

中間部はアンダンテにテンポを落とし,ブルースになります。トランペット・ソロが哀愁の漂うメロディを演奏します。この辺では,ホームシックにかかったアメリカ人の故郷への郷愁を描いています。映画「巴里のアメリカ人」では,かなり官能的な雰囲気の映像になっていました。

第3部は,チャールストンのようなノリの良い雰囲気になります。1920年代は,「激動の20年代(ローリング・トウェンティ)」と呼ばれていますが,その時代のムードが良く伝わって来ます。再度,雑踏の雰囲気が戻り,ブルースの旋律も絡み合い,華やかに「パリ見物」が終わります。(2003/02/09)