グリーグ Grieg

■ピアノ協奏曲イ短調,op.16

「ペールギュント」と並ぶグリーグの代表作です。ロマン派のピアノ協奏曲の中でも特に人気の高い曲です。特に冒頭部分のインパクトの強さはチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番と並ぶものがあります。曲の作りや長さは,シューマンのピアノ協奏曲と似たところがあり(どちらもイ短調です),CDでもこの両曲が組み合せられることがよくあります。シューマンと違うのは,ノルウェイの民族性を感じさせる点です。この曲を作った頃のグリーグは,前年に結婚,翌年に女の子が生まれたばかりで,幸せの絶頂にあったようです(ただし,この子供は1歳で亡くなっています)。そのことも曲に反映しているようで,大変充実した作品になっています。

第1楽章
ティンパニのクレッシェンドに続いて,「バン」と全楽器で強奏されます。ピアノもこの時に加わり,強い音で下降していく印象的な主題を演奏します。ここ出てくる「ラ・ソ#・ミ」という下降する動機は,グリーグ自身「トレードマーク」と呼んでいるもので,その他の曲にも出てきます。続いて出てくる第1主題は,木管楽器で出てきます。このメロディは北欧民謡風です。ピアノがしみじみと繰り返した後,軽快な感じで推移します。第2主題は最初チェロで出てきます。こちらも情感のこもった,いかにもロマン派という感じの旋律です。グリーグは,「北欧のショパン」と呼ばれることもありますが,この辺にその本領が発揮されています。続く展開部は,呈示部に比べて短めです。フルートとホルンで第1主題が繰り返された後,ピアノによる華麗な展開が続きます。型どおりの再現部に続いて,コーダに入ります。ここでは,作曲者自身による起伏が大きく大規模なカデンツァが演奏されます。最後に冒頭の「トレードマーク」が再現して楽章が終わります。

第2楽章
まず,弱音器をつけた弦楽器によって瞑想的な主題が演奏されます。中間部ではじめてピアノが登場します。ここでのピアノは繊細で装飾的なメロディを演奏します。北欧の夜空にきらめく星を見るような雰囲気があります。続いて,最初の部分が再現しますが,今度はピアノも入っています。ショパン同様,ノクターン風の第2楽章です。

第3楽章
自由なロンド=ソナタ形式の楽章です。木管楽器群による序奏に続き,ピアノに民族舞曲風の主題が登場します。オーケストラが反復して,この主題が展開されます。中間部は,フルートの清冽な旋律で始まります。ピアノがこれを引き継ぎ,管弦楽と美しく絡み合います。この後,最初の部分が再現します。ここでは,ピアノ,管弦楽ともにスケールアップしています。カデンツァ的な部分のあと,3/4拍子のクワジ・プレストの軽やかな終結部に入ります。最後に4/4拍子のアンダンテ・マエストーソになり,中間部の主題が雄大に演奏されて,堂々と締めくくられます。(2002/5/2)