ヘンデル Handel

■水上の音楽
ヘンデルは,バッハと同じ年に生まれていますが,バッハとは対照的に,若い頃からイタリアヘ出向き,その後はイギりスを来訪し,最終的には,イギリスの市民権を獲得しています。名前も,「ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル」から,「ジョージ・フレデリック・ヘンデル」となっています。そのヘンデルの作った管弦楽曲の代表作が「水上の音楽」です。

この曲については,有名な逸話があります。ヘンデルがドイツのハノーファーの宮廷に仕えていた頃の主君ハノーファー侯が,何と後年イギリス国王に就任し,ジョージ1世としてヘンデルのいるイギリスヘやって来ました。ヘンデルはハノーファー侯の再三の帰国命令を無視してイギリスに居付いていましたので,「これは困った」ということになりました。そのご機嫌を取るために作った曲がこの「水上の音楽」という説です。王がテームズ川で舟遊びをする際のために、壮大な管弦楽曲を作曲・演奏して,めでたく和解した,という話なのですが...この話は少々出来すぎたところがあります。この曲が出来た時,すでに彼らは和解していたようです。

ただし,舟遊びのために作られた曲だということは事実のようです。野外で演奏されることを想定していますので,全体に明るく,開放的な雰囲気が溢れています。管楽器はソリスティックに活躍しますので合奏協奏曲のような雰囲気もあります。

【この曲の版について】
この作品は王の舟遊びの際に一括して作られた可能性は少ないようです。曲の成立事情を考慮して、現在では全体を3つの組曲(順にへ長調、二長調、ト長調)に分けて演奏されることが多くなっています。戦後の「新ヘンデル全集」(レートリヒ校訂。通称ハレ版)はこの考えに基づいています。「旧ヘンデル全集」(クリュサンダー校訂。クリュサンダー版)は全19曲(数え方によっては22曲)を一括した大組曲として演奏します。この2つの版を折衷して演奏したりすることもあります。

また,全曲を3つの組曲に分ける場合,通常次のとおりとなります。
第1組曲ヘ長調:1〜9曲
第2組曲ニ長調:10,11,14,15,19曲
第3組曲ト長調:12,13,16−18曲

その他,近代管弦楽用に編曲されたハーティ版という抜粋された6曲からなる組曲版もあります。

●第1組曲へ長調HWV348

編成:オーボエ*2,ファゴット*1,ホルン*2,弦楽器
番号 名称 内容
序曲(ラルゴ−アレグロ) 緩−急の2部からなる弦とオーボエによる活き活きした曲
アダージョ・エ・スタッカート オーポエのソロが中心の少し淋し気な曲
(アレグロ)−アンダンテ−(アレグロ) 急−緩−急の3部から成る。ホルンの勇ましく,少しユーモラスな信号音を伴う主部と2本のオーポエ,ファゴットと弦楽合奏とが絡むおだやかな中問部とが好対照を成します。ハーティの組曲版ではアレグロの部分が第1曲として,アンダンテの部分が第5曲として演奏されます。
メヌエット オーポエ,弦楽合奏による力強い3拍子にホルンが合いの手を入れる楽しい曲
エール(エアまたはアリア) ヘンデルの書いた名旋律として知られる優雅で美しい曲。弦楽合奏にオーボエやホルンが控え目に加わります。ハーティの組曲版では第2曲として演奏されます。
メヌエット ホルンニ童奏で始まり弦に受け継がれる主部と,弦と通奏低音だけによるトリオとから成る曲。
ブーレー フランス起源の4拍子の舞曲。軽快な動きのあるメロディが編成を変えて3度繰り返されます。ハーディの組曲版では第3曲です。
ホーンパイプ イギリス起源の2拍子の舞曲。ここでも3度繰り返されます。ハーティの組曲版では第4曲です。こちらの版では弦楽器に木管楽器が加わっています。
(アンダンテ) オーボエ+ファゴットと弦楽合奏とが対話風に絡み合います。

●第2組曲ニ長調HWV349,第3組曲ト長調HWV350
編成:オーボエ*2,ファゴット*1,ホルン*2,トランペット*2,弦楽器
番号 名称 内容
10 (序曲) 初めてトランペットが登場します。これにホルンが応答します。【第2組曲】
11 アラ・ホーンパイプ 全曲中最も有名な曲です。弦とオーポエによる主題提示のあと,ここでもトランペットとホルンとが掛け合いをします。中間部では金管が沈黙し,弦楽器群がスケルツォ風に忙しく動さ回ります。ハーティの組曲版では第6曲です。【第2組曲】
12 (メヌエット) 一転してフルートと弦楽器によるしっとりとした合奏となります。【第3組曲】
13 リゴードン 版によっては「アリア」「ブーレー」となっています。オーボエと弦楽器による元気のよい曲です。【第3組曲】
14 ラントマン トランペットの弱奏にホルンと弦楽器が絡むゆっくりした曲。中問部は金管が沈黙する。ここは「ルール」とする版もあります。【第2組曲】
15 ブーレー 楽器を替えて楽しげな楽想が3回繰り返されます。【第2組曲】
16 メヌエット 弦楽器と通奏低音だけによるしっとりした曲。【第3組曲】
17 (アンダンテ) 事実上メヌエットです。ブロックフレーテが主旋律を奏するのが印象的です。【第3組曲】
18 カントリー・ダンスI・II 版によっては「ジーグ」となっています。ブロックフレーテ中心のI(長調)と,弦楽器とファゴットによるのやや重々しいIIとが交替する。【第3組曲】
19 メヌエット トランペットとホルンが朗々とメロディを奏する3拍子の曲。前半と後半とをそれぞれ繰り返します。【第2組曲】
(参考文献)水上の音楽他(トレヴァー・ピノック指揮イングリッシュ・コンサート,ドイツグラモフォンF00G-27037 )渡辺和彦氏の解説)
最新名曲全集4.管弦楽曲I.音楽之ト友社,1980
(2003/07/12)