ハイドン Haydn

■オラトリオ「四季」〜「春」「秋」
オラトリオというのは宗教的な題材を扱ったセットのない音楽劇のようなものです。オペラと違い,演技をすることもありません。最近はやりの演奏会形式オペラのようなものと言えそうです。オラトリオの代表作としては,ヘンデルの「メサイア」,バッハの「クリスマス・オラトリオ」,ハイドンの「天地創造」などがあります。これらは,タイトルからしてキリスト教的なのですが,「四季」は,それらに比べると,もっと世俗的な感じです。ただし,内容を読むと,「神への感謝」がやはり中心的なテーマになっています。この曲には,シモン(バリトン独唱),ルーカス(テノール独唱),ハンネ(ソプラノ独唱)という名前がついたオーストリアの農民が春夏秋冬を通じて登場し,四季それぞれの素朴な感謝と祈りを合唱とともに歌います。歌詞はドイツ語です。この中から「春」と「秋」について説明しましょう。

●春
「四季」には曲ごとに番号が振ってあります。CDのトラックもこの番号と対応しているようです。この番号順に説明します。

第1番 序奏(冬から春への推移) 「春」といいつつ,いきなり,重く下降していく暗い感じの序奏から始まります。これは,冬の厳しさを描いたものです。ハイドンの交響曲の序奏を思わせるような立派な雰囲気があります。その後,3人の独唱者が順に登場し,春が訪れたことを告げます。

第2番 農民たちの合唱 春を待つ農民たちの合唱です。民謡のような感じの素朴で親しみやすい曲です。

第3番 レチタティーヴォ(シモン)
第4番 アリア
 シモンが畑仕事をする農夫の様子を歌います。鼻歌まじりに歌っているような雰囲気があります。途中から,オーケストラはハイドンの交響曲第94番「驚愕」の第2楽章の有名な旋律を演奏し始めますが,この鼻歌の伴奏にはぴったりです。

第5番 レチタティーヴォ(ルーカス)
第6番 3重唱と合唱(祈りの歌)
 仕事を終えた後,「天のめぐみがありますように」と祈る歌です。3人の独唱者と合唱によって歌われます。現代人が聞いても,1日の終わりに聞くとほっとできる歌だと思います。後半は,フーガになりますが,この主題は,モーツァルトのレクイエムの中にも登場します。ハイドンの四季の方が後に作曲されているので,何かの意図があって引用したのかもしれません。本を調べて見ると,どちらの曲の初演にもスヴィーテン伯爵という人がかかわっているので,何か秘密がありそうです。

第7曲 伴奏付きレチタティーヴォ(ハンネ)
第8曲 3重唱と合唱(喜びの歌)
 祈りがかなえられたことを喜ぶ歌です。この辺の歌詞の内容は「手のひらを太陽に」と似たようなもので,「みんな,みんな生きているんだ」ということを抑えたタッチで感謝しています。それが休符でひと区切りつくと,急に荘厳な雰囲気になり,「春」を結ぶ合唱になります。3重唱もまじえながら,神への賛美の歌が,フーガへと発展していき,力強く結ばれます。
 
●秋
第19番 序奏(豊作への農民の喜びの感情)とレチタティーヴォ
 「四季」という名の付く曲に共通するのは,秋は収穫を感謝する曲になっていることです。この序奏は,そのことを暗示しています。序奏の後,3人の独唱者によるレチタティーヴォが続きます。

第20番 合唱付き3重唱 木管の生き生きとした序奏の後,3人の独唱者が勤勉な者に報いてくれた自然をたたえる歌を歌います。合唱が入ってくると,やはり最後はフーガになります。

第21番 レチタティーヴォ(3人の独唱者)
第22番 二重唱(ルーカス,ハンネ)
 果実を取り入れる若い男女の二重唱です。2人が軽妙に掛け合うように進み,最後に「愛のデュエット」といった感じでハモリます。結構長い曲で,技巧的な部分もあるので,このままオペラの中でも使えそです。

第23番 レチタティーヴォ(シモン)
第24番 アリア
 シモンが田を荒らす害鳥を追っ払う歌。描写的な曲で,途中で,太鼓が「ドン」と一発鳴り,鳥を打ち落とす様子を描写しています。

第25番 伴奏付きレチタティーヴォ(ルーカス)
第26番 合唱
 狩と言えばホルンと決まっていますが,この曲でも,ホルンが大活躍します。村をあげての鹿狩りの光景を描いている曲です。ウェーバーの狩人の合唱につながるような感じの曲なのではないかと思います。

第27番 レチタティーヴォ(3人の独唱者)
第28番 合唱
 収穫が終わると,やることは宴会と決まっています。レチタティーヴォでワイン作りの様子を語った後,「盛り上がろう,盛り上がろう」という合唱が最後まで続きます。最初のうちは,かなりきちんとした真面目な合唱なのですが,途中で民族舞曲風に切り替わります。歌詞の中に「heisa hopsa!」という言葉が何回も出てきますが,これは「魔笛」のパパゲーノの「わたしは鳥刺し」アリアでおなじみの言葉です。ドイツ語でも「ホイサッサ」というような掛け声のようです。最後は,トライアングル,タンブリンなどの鳴り物が入り,賑々しく終わります。(2001/9/13)