ハイドン Haydn

■交響曲第101番ニ長調Hob.I-101「時計」

ハイドンの後期の交響曲は名作揃いですが,その中でも特によく知られた作品です。ロンドン交響曲集の第2期に入る作品で,ハイドンの交響曲の中でも熟練した手法で書かれた名作です。両端楽章などは,一瞬も弛緩するところがありません。

ニックネームの「時計」は,第2楽章の規則正しいリズムによるものです。ハイドン自身が付けたものではありませんが,19世紀には既にこのように呼ばれています。これ以外に呼びようのないネーミングで,世界的にこのように呼び名で知られています。

第1楽章
ニ短調のゆったりとした序奏で始まります。大家ハイドンの貫禄を示すような堂々としたムードがあります。一息ついた後,ニ長調の主部になります。素早くキビキビと駆け上って行くような第1主題はとても爽やかです。それでいて,どことなく落ち着きも感じられます。この音の動きは序奏の動きと関係がありそうです。その後,全楽器のトゥッティによる経過部になります。この部分ですでにドラマを感じさせてくれます。その後,フェルマータで半休止した後,再度活発な動きが出てきて転調部にはいります。第2主題は第1主題に近いもので,実質単一主題と言っても良いものです。小結尾はフォルテで結ばれます。

展開部は3つの部分に分かれます。まず第2主題を中心に展開されます。その後,音量と調性の変化が付けられながら第1主題の動機が展開されます。最後の部分は再現のための経過部となります。再現部に向けての気分が徐々に盛り上がってきます。

再現部では,経過部が縮小されていますが,その代わりに新しい展開が挿入されています。第2主題の再現は拡大されて,ここでも新しい展開が見られます。その後,さらに第2主題の動機が展開されます。最後は第1主題によるコーダとなります。

第2楽章
ニックネームどおりの時計をイメージさせる単調なリズムの上に滑らかなメロディが出てきます。このリズムの刻みはファゴットの「ポッ・パッ・ポッ・パッ」という音が中心になっていますので,どことなくユーモアを感じさせてくれます。ここでの「時計」は,せわしなく秒針が動く腕時計ではなくゆったりと振り子が動く柱時計のような雰囲気があります。

その後,この主題がト短調,ト長調,変ホ長調,ト長調の順に転調されながら変奏されていきます。伴奏の時計のリズムを演奏する楽器は,変奏によって微妙に違いますが,基本的なリズムに変化はありません。変奏の後半では,リズムも盛大になってくるようなところがあります。ところどころ,ロマン派を思わせる情感も感じられます。最後に短いコーダが付きます。

第3楽章
冒頭からメヌエット主題がゴージャスに出てくる,堂々としたメヌエットです。メヌエット主題は2部形式になっています。トリオではニ長調のオスティナートの上にフルートが軽やかなメロディを演奏します。

第4楽章
ロンド・ソナタ形式で書かれています。ここでも単一主題的で,切れ味抜群の音楽が続きます。第1主題は弱音でひっそりと始まります。経過部がフォルテで演奏された後,転調部になります。ここで新しい主題が出ますが,後で使われることはありません。第2主題は第1主題から派生したものです。後半はシンコペーションのリズムが出て来ます。フォルテのフレーズになって簡潔に呈示部が締めくくられます。

その後,第1主題中間部の楽想が再現します。続いて,第1主題,第2主題が次々と転調されて複雑に展開されていきます。対位法的な精密な音の動きも目立ちます。再現部は,単純な再現ではなく,主題を強調するようにコーダが形作られて行きます。(2004/03/28)