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ハイドン Haydn
交響曲第102番変ロ長調Hob I-102

「ザロモン・セット」と呼ばれる,ハイドンの交響曲の最後の12曲はいずれも傑作揃いですが,ニックネームの有無によって,演奏される頻度がかなり違います。100番以降の交響曲には,「軍隊」「時計」「太鼓連打」「ロンドン」といったニックネームが付けられており,いずれもよく知られていますが,この102番だけはタイトルがないこともあり,実演で演奏されることはあまりありません。聞けば分かるとおり,他の作品に劣る部分は全くありませんので,かなり損をしていると言えます。

この曲が書かれた時代は,フランス革命の直後という大変動の時代でした。その影響もあり,ロンドンでも大陸から一流奏者を集めるのが難しくなり,ザロモンが行っていたザロモン・コンサートも,1795年には中止せざるを得なくなりました。それに代わって行われるようになったのが,どんどん在住の音楽家による「オペラ・コンサート」と呼ばれるものです。この102番から始まる,ハイドンの最後の3つの交響曲は,このコンサートのために作曲されています。

曲は,いつもどおりの形式・構成で書かれていますが,曲の至るところで翳りを見せる部分があり,どこかミステリアスなムードを持っているのが大変魅力的です。

編成:フルート2,オーボエ2,ファゴット2,ホルン2,トランペット2,ティンパニ,弦五部

第1楽章 
楽章は,序奏とソナタ形式の主部からなっています。ラルゴ,変ロ長調,2/2の序奏は,全楽器による静かなユニゾンでゆったりと始まります。弦楽器の高音域を中心に神秘的な気分を持っているのが特徴です。どこか宗教音楽的な気分さえ漂います。

序奏部が,半終止した後,テンポがアレグロ・ヴィヴァーチェ,変ロ長調,2/2に変わり,ソナタ形式の主部に。第1主題はシンプルで活気のあるものです。ヴァイオリンの軽やかな動きと低音部のトン,トン,トンというリズムが組み合わさった,とても耳に残りやすいものです。経過部では,対位法的な音の動きが続きます。その後,ニ短調の和音がバーンと出てきて,第2主題部になります。和音の後,全休符が入るので「おや?」という感じになります。第1主題と対照的な雰囲気ですが,素材的には共通しています。

展開部は,第2主題がハ短調で演奏された後,第1主題の素材も交えて,非常に緊密に展開されます。特に途中,23小節に渡って続く,厳格なカノンが聞きものです。フルートがすっきりと第1主題を演奏し,再現部と思わせる「偽再現」があるのも,ハイドンらしい部分です。続いて,ちょっと東欧的な雰囲気が出てきたり,大変盛りだくさんな展開部です。

再現部は,型どおりで,第1主題,短縮された経過部,第2主題,小結尾の順に再現され,第1主題によるコーダですっきりと閉じられます。

第2楽章 
アダージョ,3/4,ヘ長調,3部形式。穏やかな気分に溢れた緩徐楽章です。全編に渡って,独奏チェロが分散和音でオブリガートを付けているのが特徴的です。

主題は,3連音を含むもので,短調と長調を行き来しながら進みます。どこか,ロマン派の交響曲を先取りしているようなところもあります。中間部も同じ素材によっていることもあり,楽章全体に陰影のあるムードが漂います。たっぷりと深い音楽に浸ることができる見事な楽章です。

第3楽章 
アレグロ,変ロ長調,3/4,メヌエット。素朴に上昇した後,スルスルスルと下がってくるようなメヌエット主題で楽章は始まります。堂々とした壮麗さのある,いまかにも古典派交響曲のメヌエットらしい部分です。

トリオは,オーボエとファゴットを中心に演奏されるレントラー舞曲風のものですが,所々半音階的な動きを含み,ちょっとヒネリが効いており,メヌエット部と見事な対比を作っています。

第4楽章 
プレスト,変ロ長調,2/4,2主題ロンド・ソナタ形式。3楽章までは,ハイドンらしくない翳りがあるのが魅力的でしたが,この楽章では,いつものハイドンに戻り,スピード感溢れるプレストになります。2つの主題が繰り返し出て来る,2主題ロンド・ソナタ形式という独特の形式で書かれています。

第1主題はプレストらしく快活で,リズミックな舞曲風の性格を持っています。ダイナミックな経過部の後,スフォルツァンドが連続する第2主題となります。この主題は,非常に個性的で,半音階的な音の動きが,独特の気持ちの良い流れの良さを生んでいます。

第1主題が再現された後,大規模な展開部になり,対位法的な音の動きを伴いながら,各主題が展開されます。第1主題,第2主題と再現した後,最後に第1主題に基づく大きなコーダとなり全曲が締められます。
(2009/09/05)