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ハイドン Haydn
交響曲第103番変ホ長調Hob I-103「太鼓連打」

「傑作の森」と言っても良い,ハイドンの最後の12曲の交響曲の中でも,特にきっちりとした形式的な完成度の高さを持っているのがこの作品です。何と言っても「太鼓連打(The drum roll(Mit dem Paukenwirbel)」という独特のニックネームが目を引きますが,これは,第1楽章の序奏の最初に出てくるティンパニのドロドロドロ...という連打に基づくものです。クロアチア民謡に基づくメロディが出てくるなど,親しみやすさと形式感が,しっかりと結び付いた,ハイドンの交響曲の代表作の一つです。

編成:フルート2,オーボエ2,ファゴット2,ホルン2,トランペット2,ティンパニ,弦五部

第1楽章
楽章は,序奏とソナタ形式の主部からなっています。アダージョ,変ホ長調,3/4の序奏は,「太鼓連打」というニックネームの由来となった,印象的なティンパニのドロドロドロというロールで始まります。その後,聖歌を思わせるような落ち着いたメロディが続きます。この動機は,展開部でも登場しますが,こういう形はハイドンとしては,珍しいものです。

主部は,アレグロ・コン・スピリート,変ホ長調,6/8となります。第1主題は,序奏から一転して,軽やかなもので,小躍りするように進む,魅力的なものです。その後,フォルテの部分になった後,オーボエが主題を変形し,経過部になります。第2主題は,属調の変ロ長調になりますが,第1主題同様に6/8拍子の軽快で親しみやすいものです。この第2主題部は,短く切り上げられ,小結尾になります。

展開部では,まず第1主題の展開が行われますが,その後,サッと雰囲気が変わり,序奏部で出てきた動機が短調で出てきます。第1主題,第2主題の動機がさらに展開された後,再現部となります。

再現部では,第1主題,第2主題が共に変ホ長調で再現された後,突然,変イ長調のフォルテ部となり,さらに序奏部が再現されます。最後は,簡潔なコーダで締めくくられます。

第1楽章は,このような形で,序奏部の神妙な雰囲気と第1主題のダンサブルな気分とが交錯しながら,しっかりとした統一感を感じさせるような構成となっています。

なお,この「太鼓連打」の部分ですが,ハイドン自身による,音量や強弱の指示がないこともあり,指揮者によっていろいろな解釈がある部分です。その違いを聴き比べるのもこの曲を楽しむポイントの一つとなっています。ドロドロドロと静かにクレッシェンドしていくパターンが多いのですが,時々,落雷するような激しい演奏もあって驚かされます。

第2楽章 アンダンテ・ピウ・トスト・アレグレット,ハ短調,2/4
この楽章は,ハ短調の第1主題とそれと同じ楽想をハ長調にしただけの第2主題が,交互に登場し,それぞれが変奏されていく二重変奏曲となっています。落ち着いた歩みを感じさせる素朴なメロディはいかにもハイドンらしいものです。

各主題は,2部形式で前半・後半から成っており,2回変奏されます。第2主題の第1変奏では,独奏ヴァイオリンが,3連音で華麗にオブリガートを付ける部分が特徴的です。

第1主題の第2変奏では,金管楽器やティンパニが加わり,ダイナミックな盛り上がりを見せます。その後,第1ヴァイオリンに細かい音の動きが絡み合ってきます。続く,第2主題の第2変奏は,オーボエなどによってほとんど変奏されることなく歌われ,終結部となります。

第3楽章 メヌエット。アレグロ,変ホ長調,3/4
メヌエット部は,素朴な感じで堂々と始まった後,ホルンなどが合いの手を入れる形で進んでいきます。後半は,対位法的に展開されます。同じく変ホ長調のトリオでは,クラリネットが第1ヴァイオリンに重ねてレントラー風のメロディを歌った後,いろいろな楽器が受け継いでいきます。

第4楽章 フィナーレ。アレグロ・コン・スピリート,変ホ長調,2/2,2主題ロンド・ソナタ・形式
ホルンによる4小節の導入部の後,一旦休符が入ります。その後,仕切りなおしのような感じで第1主題が軽快に始まります。この主題の「タタタ,タータタ...」というリズム動機は,その後しつこくしつこく,楽章を通じて繰り返し出てきます。この主題がダイナミックに盛り上がりながら,経過部に入っていきます。第2主題も,第1主題が少し発展したものなので,単一主題による楽章とも言えます。

その後も,基本リズムを中心に,主題が対位法的に絡んだり,新しい動機を加えたり,様々なアクセントや和声を加えたり...と次々と登場する手品を見るような感じで曲は進んで行きます。曲はいつの間にか巨大に成長しており,堂々と全曲が締められます。

(参考文献)
交響曲読本(ONTOMO MOOK).音楽之友社,1995
ハイドン(作曲家別名曲解説ライブラリー;26).音楽之友社,1996
(2010/09/04)