ハイドン Haydn

■交響曲第53番ニ長調,Hob-I-53「帝国」
1779年にエステルハーザのオペラ劇場が全焼し,楽譜も焼失してしまったため,この曲の成立事情にもはっきりしない部分があります。最初あった作品に後から序奏が追加されたとも言われています。その他,終楽章にも複数の版があります。というわけで,あれこれ不明の点が多い作品となっています。

ハイドンの生前は大変好まれていた作品のようですが,現在は,数々の異稿が存在することもあって,ほとんど知られていない作品となっています。しかし,そのまま埋もれさせておくのが惜しいぐらい,ハイドンらしい魅力に溢れた「隠れた名曲」です。

この曲に「帝国」という愛称がついているのは...よくわかりません。ハイドン時代にはなかったようですが,19世紀になって付けられたものと言われています。

第1楽章([序奏]ラルゴ・マエストーソ,ニ長調,3/4−[主部]ヴィヴァーチェ,ニ長調,2/2,ソナタ形式)
序奏はトゥッティによる堂々とした楽想で始まります。たっぷりと間をとって,下降していくような主題です。「帝国」という標題に相応しく,スケール感たっぷりの部分です。

主部に入ると気分が変わり,ほっとするような主題になります。チェロとホルンによって静かに始まります。この主題が第1ヴァイオリンに受け継がれて行きます。経過部ではフォルテに盛り上がって行きます。第2主題は気品のあるメロディが弦楽器で演奏されます。メロディの後半ではオーボエが加わってきます。ここでも次第にフォルテに盛り上がり,提示部が終わります。

展開部は短調に転調されながら第1,第2主題の素材を生かして進んで行きます。再現部では,第1主題がフォルテで再現します。全体的に提示部よりは短縮された形になっています。楽器の使用法については,第2主題で使われていたオーボエがフルートに変えられています。

第2楽章(アンダンテ,イ長調,2/4,2主題変奏曲形式)
軽快な民謡風の主要主題は当時大変人気があったものです。ハイドンの像が生地ローラウに建てられた時,このメロディが刻まれています。鼻歌混じりに歌いたくなるようなメロディです。続いてこの主題が短調に変形されたような第2主題が出てきます。この2つの主題が交互に変奏されて行きます。ティンパニが使われておらず,室内楽のような雰囲気のある変奏曲です。フルートなどの木管楽器がのどかに出てくるのもいかにもハイドンらしいところです。

第3楽章 (メヌエット,ニ長調,3/4))
まずメヌエット主題が朗らかに演奏されます。一瞬,暗い雰囲気になり,テンポもぐっと遅くなるなど,変化もつけられています。トリオも同じ調性で書かれていますが,楽器の使用法ががらっと変えられて,室内楽的な雰囲気となり,メヌエットとは好対照を作っています。

第4楽章(第1版B版)(プレスト,4/4,ソナタ形式)
リズミカルな第1主題が急速で演奏されて始まります。第2主題は対照的に穏やかに流れるように進みます。展開部では第2主題の楽想をもとにしたフレーズが数回繰り返され,最後は短調になります。その後,第1主題が短調で現れ,再現部になります。しばらく,暗い雰囲気が続きますが,最初の明るい雰囲気に戻って全曲が結ばれます。

ちなみに,この楽章は,ハイドンが古い時代に書いた序曲を転用したものです。なぜ転用したかは不明です。また,この楽章には「第2版A版」という別の版もあります。こちらの方が新しい版で,1779年の火災以降に書かれたものと言われています。上述の版とは全く別物で「フィナーレ,カプリッチョ,モデラート,ニ長調,2/2,3部形式」という形式になっています。(2003/11/08)